Mellow〜海面に咲く華〜 第八話「駆け引きの入り口」



登場人物

♂ミカヅチ・アザイ 17歳 行方の分からぬ父親を探すため妹と共にヴァルハラへ転校してきた本編の主人公
                        意外とフランクな性格と見せかけて不真面目万歳の皮を被った「武人」。若干シスコン

♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、エリダンヌ家で製造された戦闘型アンドロイド。
                    感情を持たない割には、若干ドジっ娘気質

♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトでミリタリーマニア、不真面目代表
                            一見チャラい男だが、ミカヅチ同様なにかとアツいものを秘めている

♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、共にヴァルハラへ転校してくる。
                      重度のブラコン。ミカヅチを慕ってる。最近レベッカに狙われてます

♀レベッカ・フレイズ 16歳 アメリアを慕う後輩。ミズチとスティレットのクラスメイト
                          真面目な性格だが、ミズチの愛で方が半端なかったりする百合っ娘

♂アルバート・ブーン 38歳 ミカヅチのクラス担任。就任15年目のベテラン教師
                          スーツをラフに着こなし、そこから見える逞しい肉体と煙草がトレードマーク。

♂助教授 20〜30代 アトランティス遺跡研究所の調査チームに所属する助教授(七話での遺跡研究員)。
                    前回なんかとっとと居なくなって終わったけど生きてたんですね!!


※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※


役表(♂4:♀3:N1)
♂ミカヅチ:
♂ハーネル:
♂アルバート:
♂助教授:
♀ミズチ:
♀レベッカ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:



ハーネル:・・・ったく、身体(からだ)の節々が悲鳴上げてらァ。歳なんて食ってねぇぞ?

ミカヅチ:あーまったくだチキショウ、何をどう考えても最後の自爆のせいだ。そうだそうに違いない
        (※棒読み)俺はまだピチピチの17歳ですこの一件で老けたなんて言いません寝たい

ハーネル:おーっしゃ・・・もうじき入口だ。ミカヅチ、さっきの件、核心的なのは暫く他言無用でいこうぜ

ミカヅチ:オーライ。嫌でも中身は姿を現すだろう、それまで俺が煮詰めておくわ

N:ホコリまみれの野郎2人がざくざくと来た道を戻っていく
   一点の光を目がけて歩いて来たが、ようやく元の来た道、遺跡の入り口へ辿り着く
   溜め息をつきながら出てきた先にはアルバート率いる別働隊。煙草をくわえたアルバートは腕を組んで立っていた

アルバート:・・・お前等の格好が大変さを物語っているな。詳しく報告を頼む

ミカヅチ・ハーネル:だ が 断 る


ミカヅチ:第八話「駆け引きの入り口」


N:翌日、ミカヅチとミズチがいつもと変わらぬ登校風景を描いている
   強面(こわおもて)の兄と小動物のような妹。身長差もそうだが転校初日に保健室送りになっているアザイ兄妹は
   ちょっとした有名人。しかしそれも気にせず呑気に欠伸をするミカヅチ

ミカヅチ:神・・・いや、政府は何故こんな朝早くから学生を学校へ叩き出す規律を作ったのだろうか・・・

ミズチ;お兄ちゃん、なに朝からワケわかんない事言ってるの

ミカヅチ:いやな?考えてもみてくれミズチ・・・。始業ベルがあと30分遅かった場合だ、
        「うーん・・・あと10分」と言って10分二度寝してもいつもより20分余裕があるんだぞ?

ミズチ:その分、夜ふかしの頻度が増えて睡眠時間変わらないから効果無いと思うけど

ミカヅチ:分かってないなお主、こちとら夜ふかししようがしまいが7時前には叩き起こされる。
        ・・・仮に深夜アニメの為に夜ふかしをし、2時半に寝たとしたら睡眠時間は約4時間半、
        それが5時間に変わるんだぞ!?ウン時間半ってのとキッチリとしたウン時間ってのは大いに違うぞ!?

ミズチ:30分も遅くされると・・・ご飯冷めちゃう

ミカヅチ:う"・・・いや、それをだな・・・

ミズチ:お兄ちゃんの好きな豆腐と万能ネギのお味噌汁も、紅葉(もみじ)おろし添えのだし巻き玉子も

ミカヅチ:・・・君も30分の余裕があるってワケでだな・・・わざわざ早くから準備を・・・

ミズチ:あのふわふわ感、焼き立てじゃないと味わえないのにな・・・

ミカヅチ:・・・・・・

ミズチ:・・・・・・・・・

ミカヅチ:・・・スミマシェンデシタッ

ミズチ:よしッ

N:「朝なれど、主導権は、妹に」。ミカヅチ・アザイ、辞世の句
   がくりと肩を落とす巨体と、その横でガッツポーズを取るちっこいの。その背後から
   勢いをつけて迫りくる影が一つ。妙な唸り声のようなものを上げて足音がだんだんと近くなり

ミカヅチ:ッ・・・!

レベッカ:ミィぃぃぃズチィィィぃぃぃぃぃいッ!!!

ミズチ:ふぇ!?レベッカってきゃぁあッ!?

ミカヅチ:・・・何だ、特急同性痴漢専用車両(ワンマン編成)か

ミズチ:レベッカ、おはよう

レベッカ:ミーズーチッおはよ♪む、そんな獲物を捉えた蛇みたいに睨まないでくださいよ先輩!
        これは私とミズチの日常茶飯事的なスキンシップなんですから

ミカヅチ:誰も睨んどらんわい、むしろ朝からこんな喧しくて萎えちょるわ

レベッカ:何を朝からそんな辛気臭い顔してるんですか、老けますよ?
        あ!ごめんなさいその顔から更に老けたら大変な事になりますね!

ミカヅチ:・・・三枚下ろしにして腸(はらわた)と脊髄引き摺り出されたくなかったら今すぐ黙れ

レベッカ:おぉう怖い怖い・・・コレは冗談では済まされなくなりそうです

ミズチ:・・・あれ?あそこにいるの、スティレットちゃん?

レベッカ:あらホントだ、めずらしー。制服着て一人で登校なんて・・・
        って・・・そうなるとアメリア先輩は何処(いずこ)へ?

ミカヅチ:(昨日の所業で体調崩したか?・・・アメリアには悪いが少し都合が良い)

N:数メートル前を歩くスティレットに、ミズチとレベッカが駆け寄る。
   ミカヅチは鼻で溜め息をつきながら、変わらぬ足取りでその後ろをついて行く

スティレット:皆様・・・おはようございます

ミカヅチ:おう。・・・あいつは昨日ので休みか?

スティレット:はい、様々なショックの重なりから体調を崩されまして・・・
            明日には復帰できると思います

ミカヅチ:そうか、お大事に・・・と伝えてやってくれ

ミズチ:昨日・・・って、遺跡の下見探索に行ったんだよね?
      お兄ちゃん、服がすごいボロボロの状態で帰ってきたからビックリしちゃった

ミカヅチ:いやァ、あれはマジ大変だった・・・。お陰でまた年食った気がするぞ

レベッカ:ですからそれ以上年取ったら顔がオヤz

ミカヅチ:(※間髪入れず)じゃぁかしいわ

レベッカ:ふんぎゅ!?・・・先輩いたーいー・・・

スティレット:予定では、本格的な捜索は3、4日後となっております
            ミカヅチ様・・・その時はミズチ様にレベッカ様も同伴という形でよろしいのですね?

ミカヅチ:あぁ、一応な・・・。直接見て貰って腰でも抜かしてもらうさ

レベッカ:ふーんだ!あたしはそんなヤワなタマじゃありませんよーだ!
        魔獣なんてどんと来いですよ!どんと!

ミズチ:・・・でも、アメリアさんが身体悪くするくらいだよ?

レベッカ:う"ッ・・・。アメリア先輩の力量と魔力があってもダメなのね・・・
        ・・・ねぇ、何で先輩やスティレットはピンピンしてるワケですか?
        ハーネル先輩も若干やられてるみたいですし、怪物ですかあんたら

スティレット:「疲労」というものが何なのか私は知りません

ミカヅチ:昔からやってる事変わんねぇもん、慣れだ慣れ

レベッカ:うわダメだこの2人、必殺仕○人だわ

ミズチ:だってお兄ちゃん、中等部の途中までお父さんと武者修行に出てたもん
      成績悪いのもきっと初等部から学んでなかったせい

ミカヅチ:一言多いぞ妹こんちくせう

スティレット:・・・ミカヅチ様の言うように、実際に道中を見て頂かない事には何とも言えません。
            「それなりの覚悟」というものを持たない限り、お嬢様の二の舞を演じる事になります

レベッカ:うへぇ、初陣で無茶させられるのはあまり好まないなぁー・・・

ミズチ:その無茶をしないと潜(くぐ)れない道なのかな、全部・・・

ミカヅチ:そいつぁ俺にもわからん。全部が全部イン○ィ・ジョー○ズみたいなシステムなら泣くぞ俺も

レベッカ:調査次第か・・・。なんか場所決めすらもバクチになってません?

ミズチ:お兄ちゃん達の事だから、それすらも「分の悪い賭け」って楽しんでそうだよね

ミカヅチ:・・・・・・。

レベッカ:図星なんですね・・・?あぁー!もう何で周りは血も涙もない方々が多いのー!?

スティレット:あの、皆様・・・。予鈴まであと3分15秒ですが?

レベッカ:えっ!?あっヤバい!ミズチちょいと駆け足・・・・って先輩速ッ!?

ミカヅチ:(※遠くから)お前らの歩幅だと本鈴で教室間に合うか危ういぞー?

ミズチ:あぁあぁ〜!お兄ちゃん待ってよぉーっ!

ミカヅチ:HA!HA!HA!HA!HA!(※フェードアウト)

レベッカ:待てぇぇぇ!歩幅狭く体力も無い健気な女子(おなご)に手くらい差し伸べろぉぉぉぉッ!!!

スティレット:(※ちょっと遠くから)さぁ、2人とも急がなければいけませんよ

ミズチ:ふえええぇぇぇ〜っ!

レベッカ:薄情者ぉぉぉおおおッ!!!私はともかくミズチは助けてやれぇぇえええぇっ!!!

N:眩しい光が降り注ぐ朝の爽やかな登校風景に繰り広げられる、意味の分からない猛レース
   魔法化学科1年生の担任教師曰く、「ミズチさんが2人に担がれている状態で飛び込んできた」だそうです

   所変わって魔法戦技科2年の教室。ミカヅチは欠伸をしながらだるそうに教室へ入ると、
   視界に入ったのは抜け殻のように机に突っ伏すハーネルと、その後ろに位置する誰も座っていない机

ミカヅチ:(やはりアメリアは居ない・・・か、無理もない)

ハーネル:んー・・・んん・・・?おぉ、来たかミカヅチー・・・

ミカヅチ:おう・・・ってちょ!?おま・・・寝不足か?とんでもねぇくらい目のクマできてんぞ?

ハーネル:くあぁぁあぁ・・・。まーな、久々にドンパチやらかしたしよ、モノの整備とかでな。
        ・・・おめーは普段通りだなァ、羨ましいぜその精神力・・・ちくせう!

ミカヅチ:いや、流石にそればかりは俺もどうしようもねェぞ?踏んだ場数が違い過ぎる

ハーネル:だよな・・・こうしてアメリアすらもダウンする始末だ

ミカヅチ:少しばかり波乱が起きそうだ。・・・あいつにも何か裏がありそうだしな

ハーネル:スティレット・・・か。どうする気だ?アイツも脅してゲロるようなタマしてねェだろ?

ミカヅチ:だろうな、それにまだあいつが関係していると決まったワケでもねぇ。・・・自然に切り出すさ

(ガラッ!)

アルバート:さぁおまいら席に着けぇーい!本鈴が鳴るぞー!

N:なんかテンションの無駄に高い筋肉教師が勢いよく扉を開け叫ぶ。そして鳴った始業の鐘
   どかどかと教壇に立つと、アルバートは一通り生徒を見てから出席簿を開く

アルバート:よし見た感じゲンナリしたヤツは居ないな!アメリアは体調不良で欠席だ、
          お前らも身体には十分気をつけてよく食ってよく寝てよく学べ!ファイッ!

ミカヅチ:・・・おいハーネル、なんで朝っぱらから先生あんなテンション高いんだ・・・?

ハーネル:あぁ、俺も久々に見たわ・・・。何やら、「インビジブル・マジア」特有の反動らしいが

ミカヅチ:反動?副作用みてぇなモンか?

ハーネル:だと思うzっへぶしッッ!!!

アルバート:やかましいぞおまいら!話を聞かんかーいッ!ってももう話終わったがな!
          あとハーネルとミカヅチはちょいと話あるからメシ以外の昼休み返上!終わり!バーイ!

N:ホワイトボード用マジックの弾丸をモロに受けたハーネルは、額から煙を立ててノビていた
   朝礼を終えたアルバートが教室から悠々と出て行くと、ミカヅチはハーネルに合掌する

ミカヅチ:・・・惜しい人材を亡くしたな・・・くッ!

ハーネル:いや、死んでましぇん・・・

N:昼休み。昼食をマッハで済ませた2人は、言われた通り職員室へ向かっていた

ハーネル:にしても、話って何だ?呼ばれたのが俺等2人って事は昨日の出来事だろうけどよ

ミカヅチ:俺にもわからん、結局テキトーに報告済ませたしな。どの道先生には詳細伝えようとは思ったが・・・

ハーネル:・・・そういや、スティレットの方はどうした?

ミカヅチ:今日の放課後に話ツケる事にした。朝に偶然会ったから、別れる前に伝えてある

ハーネル:OK、そっちはお前に任せる。仮にアイツがヤバい事になってもお前ん中にしまっとけな

ミカヅチ:あぁ・・・犠牲は少ない方が良い。・・・と、着いたな

ハーネル:うーい、失礼しまっすー

アルバート:おう、こっちだ2人とも

ハーネル:・・・・・・面談室?つか先生反動から戻っちょる

助教授:や、皆元気そうで何より。まぁ座って座って

ミカヅチ:助教授まで・・・。やはり、昨日の事ですか?

アルバート:あぁ・・・まぁ時間も少ない事だ。お前達には簡潔に話しておきたくてな

助教授:うん、僕が昨日。魔獣の死体から少しサンプル・・・肉片などを数体分採取して、色々調べたんだ

ハーネル:(・・・帰りの車内で少し生臭かったのはそのせいだな絶対)

助教授:まず一つは、DNAや細胞組織から見るに・・・元は「ほぼ人間だった」と言う事が分かったよ

ハーネル:・・・っつー事は、魔獣になった遺体の遥か前から、人が出入りして魔獣に襲われていたのか?

助教授:そうだろうね・・・。あとやっぱり血液感染だけは無かったよ、恐らく、外傷での直接感染だ

アルバート:血液かかって感染なんて有り得たら、返り血たっぷり浴びた俺やミカヅチは今頃ココには居ないしな

助教授:外傷感染だけど、調べてみると感染元が全て噛まれた箇所。・・・つまりウィルスは主に魔獣の歯だね
      爪などで引っ掛かれても単なるダメージで終わるけど、恐らく噛まれたら一環の終わりでしょう・・・

ミカヅチ:・・・まるでゾンビだな

助教授:そう、その解釈が次の結果に捉えられるんだけど。数あるサンプルの一部から、薬物反応が見られたんだ

ハーネル:薬物!?

ミカヅチ:単なる合成麻薬の可能性は?

助教授:ゼロに近い・・・。反応を薬物法に基づく麻薬や劇物全部で試してみたけど、どれも当てはまらない

アルバート:俺や研究チームの見解では、意図的に人間を魔獣にするための新しい薬物が作られている・・・

ハーネル:で・・・候補として有力なのが、あの「ガンスリンガー」って組織なワケか

アルバート:奴等は現在、情報も全部闇の中だ・・・。メロウを探してる目的等もサッパリだ

助教授:あと、これもかなり驚いた事なんだけど・・・。薬物反応が出たサンプルは、頭部と腕部があってね?
      頭部の方は中身、細胞は完全に死滅してたけど・・・、腕部の方は急激に細胞分裂していたんだ

ミカヅチ:・・・・・ッ!

ハーネル:それって・・・要は肉体が再生してってるって事か!?

アルバート:分かりやすく例えるならそうなるな。実際俺達が遭遇した魔獣もそうだ・・・
          四肢や胴を潰しても潰(つい)えず、頭部又は心の臓を破壊しない限り動きは止まらなかっただろう?

ハーネル:確かに・・・

助教授:ただ魔獣になる薬物なのか・・・はたまた肉体を再構築させる促進剤なのか、あるいは二つ合わさった劇薬か

アルバート:この薬物を「ガンスリンガー」が生産しているとすれば、何も無いハズの遺跡ですらこいつらの
          巣窟になりかねん・・・!人が殺され魔獣が生まれの繰り返しになってしまう

ミカヅチ:・・・それに、奴らがメロウについて追っている、何か知っているのも確かだ。
        先生、奴等は俺・・・いや親父の事も知っている。皆と別れた後の事故で魔導兵器と再度遭遇したが、
        「ガンスリンガー」の親玉がツケていた・・・この「魔導斬一刀流」も知っていたよ

アルバート:何だと・・・!?

ミカヅチ:魔導兵器の種類とかの選別は恐らくハーネルが長けている。先生、この一件はアザイ家の問題になりそうです。
        ・・・細かい部分は俺に任せて下さい。勿論、報告は必ずします

アルバート:しかしだなミカヅチ・・・

ハーネル:先生、俺からも頼む!・・・俺も久々に色んな所にネットワークを広げたくなってきた。
        けどよ!たしかに俺達はコンゴウ先生に世話になった身だけど、家族の問題に口出しはいけねェと思うんだ!

助教授:・・・・・・。

アルバート:・・・・・分かった。ガンスリンガー自体の組織的な事については俺達も調べるが、
          内面的な事はミカヅチに一任する。・・・頼むぞ?

ミカヅチ:御意

N:職員室を出た2人。残された昼休みを、パックのジュース片手に廊下の窓辺で過ごす

ハーネル:んー、こっちの件はうまく撒けたか・・・。しかし嘘と謀(はかりごと)交えて話作るのはムズいな

ミカヅチ:ま、一応事実っちゃ事実だ。解釈によっては、親父の居場所すらも急激に近くなった気がするさ

ハーネル:後は・・・あいつか

ミカヅチ:吉と出るか凶と出るか・・・果たしてどっちに転ぶかねェ

ハーネル:コンタクトは取れたのか?行き当たりばったりだとアイツ速攻で自宅帰っちまうぞ?

ミカヅチ:無論だ、朝の軽いデッドヒートの際に放課後ツラ貸せって促してある

ハーネル:・・・そうかい。さァ、残りは爆睡して過ごすか!

N:放課後の少し遅い時間、部活動者以外のある程度生徒が帰った玄関にいるミズチとレベッカ
   兄を待っているのか、周りを見回すミズチ。レベッカはある音に気付き

レベッカ:ミズチ、電話鳴ってない?

ミズチ:へっ?あっホントだっとととと・・・。あれ、お兄ちゃん?
      もしもしー?うん・・・うん、えっ、そうなの?・・・うん、うん。夕ご飯までに帰って来れるなら・・・
      うん、わかったよ。じゃあ、気をつけてね?うん・・・

レベッカ:先輩、どこか行くの?

ミズチ:うーん・・・?「昨日の事でちょいとケリ着けたい事があるから遅くなるけど、晩飯には戻る」って・・・

レベッカ:妹に対しても若干物騒な物言いするのかあの男は・・・

ミズチ:でもまぁ、夕ご飯までに帰ってきてくれるなら良いよ。今のお兄ちゃんをあまり探っちゃいけないし

レベッカ:ま、来ないと分かったら2人で帰りますかーっ!ミズチ手ェ繋ごう手!

ミズチ:ちょっ・・・流石にそれは恥ずかしい・・・


N:夕刻も越え辺りが薄暗くなり始めた頃、人気の無い学校の屋上に男が独り空を眺める
   薄暗い空を捉えるその瞳は鋭く、いつも学校で見せる雰囲気とは明らかに違う姿が其処にはあった。
   ―――手には小さな試験管アンプルが一つ、それを静かに内ポケットにしまい込む

   ドアが閉まる音が響く。男が首だけで振り向くと、その先に見えたのはメイド服の小柄な少女

スティレット:・・・お待たせ致しました、ミカヅチ様

ミカヅチ:あぁ、すまん。時間取らせちまって

スティレット:構いません、お嬢様の容体は回復していると先程連絡がありました

ミカヅチ:そうか・・・。俺も晩飯までには帰るっつったしな、少々手短に行こうか・・・。
        まず一つ、お前・・・「STシリーズ」っつーアンドロイド、知っているか?

スティレット:「STシリーズ」・・・主に工場やセキュリティ会社等の大企業が施設警備に使用されている
            防衛タイプの汎用型アンドロイドです。「ST」とは「SmartType(スマートタイプ)」の略とされています

ミカヅチ:防衛タイプ・・・?俺が聞いたのとは随分違って優しい設定なこった

スティレット:・・・と、言いますと?

ミカヅチ:「ガンスリンガー」が生産している、施設防衛・拠点制圧を主に使われている
        魔心炉を使用した戦闘型アンドロイド・・・、パーツ換装が可能だろうが、射撃型や格闘型がいたよ
        ・・・おまけに自爆装置なんて物騒なモン付いてやがる

スティレット:随分と細部までお知りになられているのですね?そう簡単に「ガンスリンガー」が
            情報をリークできるようにしているとは思えませんが・・・

ミカヅチ:直接遭って、自分が叩き潰したとするなら・・・話は別だと思わないか?

スティレット:まさか・・・!昨日通信で言った魔導兵器とは・・・

ミカヅチ:その「STシリーズ」ってヤツだ・・・。ご丁寧に親玉からの通信付きでな

スティレット:・・・・・・

ミカヅチ:そいつらよ、装甲が剥き出しだったがな・・・。そっくりだったよ、お前にな?
        ちなみにここからは俺の憶測で聞いてほしいけどよ。あいつらは「ST」で、お前はスティレットだ・・・
        「スティレット」、お前の頭文字も「ST」だ、それで「STシリーズ」の容姿。・・・偶然か?コレは

スティレット:・・・よく、そこまでお考えになりましたね

ミカヅチ:別にお前を疑う疑わないの問題じゃねェんだ。仮にお前が「ガンスリンガー」を知ってる、
        若しくは手先だったとしても、それは俺には好都合だ。情報源がすぐそこに居る事になるからな?

スティレット:その思考ですと、貴方達の事も向こうに筒抜けになってしまいますが?

ミカヅチ:構わんさ、筒抜けもクソも向こうの親玉は俺どころか、親父の事すらも知ってんだ・・・。
        自分が不利な状況に立たされても、それを挽回する情報がそこには必ずある

スティレット:・・・・・・。

N:無表情で光の無い少女の瞳は、目の前にある男の眼を離さず合わせる
   少しの静寂が訪れ、月明かりが照らすと同時に風が2人の前髪を撫でると、静寂を裂いたのは少女

スティレット:・・・「ST-02(ゼロツー)」

ミカヅチ:・・・02?

スティレット:私の識別番号です、人間型戦闘用マシナリーアンドロイド「ST-02スティレット」
            ・・・8年前に「ガンスリンガー」で生産された試作2号機、それが私です

ミカヅチ:2号機・・・?お前の他にも、お前みたいな状態で作られたヤツがいるのか?

スティレット:「ST-01ストラトス」・・・私が開発されて直ぐ、暴走事故で破壊されました。
            貴方達人間で言う、私の姉という事になりますが・・・今は試作機が開発されているかどうか分かりませんが

ミカヅチ:分からない?そっちの情報は常に更新されているんじゃないのか?

スティレット:お嬢様の世話と警護に就いて暫く、約3年ほど私は向こうとの通信を断(た)っています
            アトランティス・エリダンヌ王国を内部事情を探る任務に就いてから、向こうへは戻っていません

ミカヅチ:内部を探るってこたァ・・・お前の組織の他に、この国には裏があるってか?

スティレット:それについてはお答えし兼ねます、仮にも貴方は部外者ですのでこれ以上情報を共有させるワケには

ミカヅチ:お前が向こうに喋らなければ、情報を送らなければ良いだけの話だ。
        それに今は教える教えねぇなんざ悠長な事言ってる場合じゃねぇだろ?コンマ1の情報だろうとこっちは見逃したくねぇ

スティレット:・・・意外と貪欲で野心家なのですね?

ミカヅチ:目的が目的で、相手も相手だ・・・俺だけだと情報戦には余裕が無ェんだよ

スティレット:ではこう考えてみて下さい、貴方の知りたい情報の要は私が所持している・・・。
            しかし私は貴方がたにとって敵となっているかもしれない組織の人間であり、情報の入手、伝達が
            安易に行える・・・。得られるものが意外と少ない割には、失うものも多すぎると思いませんか?

ミカヅチ:・・・俺を脅しているつもりか・・・

スティレット:いいえ、私は「今のミカヅチ様」には有利になるよう話を移動させています
            一刻の猶予が無い、絡まる情報網に苦悩されているのも、機械である私でも見れば分かります

ミカヅチ:何が言いたい・・・!テメェのドタマが悪ィって事くらいテメェで分からァ!

スティレット:・・・一度、私の組織へ足を運んでみませんか?

ミカヅチ:・・・・・・は?

スティレット:一度「ガンスリンガー」へ来てみてはどうですか?私が戻るのと同時にです
            貴方は今、王国側の人間です。王国側の情報にも限界がありますし、ここで一つラインを引いてはどうです?

ミカヅチ:つまりお前達「ガンスリンガー」と手を結べって事か・・・?

スティレット:貴方がた捜索隊は「ガンスリンガー」の事を知ってしまった・・・。特に貴方は機密組織である
            こちら側の私と、情報提供という形でコンタクトを取ろうとしているんですよ?

ミカヅチ:さっき言ったよな、お前はもう3年近く向こうと通信切ってるってよ・・・?
        仮に再コンタクト取った所で、ハイお帰り・・・ってお前はすぐに戻っていけるタチなのか?

スティレット:仮にも私は、「ガンスリンガー」で2機しか開発されていない、自律思考行動型の1機ですよ?
            組織は軽々と貴重なマシンを見放すとは到底思えません、監視の意味も含めて・・・

ミカヅチ:そうかよ・・・(※小声で)けど、自爆装置は積まされてんだろうに・・・

スティレット:・・・何か言いましたか?

ミカヅチ:いいや、なんでもねぇ。・・・あの組織に行くって話の答えはノーだ、俺は行かん

スティレット:何故です?情報が欲しいと欲(よく)したのは貴方でしょう?

ミカヅチ:それでもだ!お前が向こうの仲間でも関係ない、ダチ公裏切ってヨソで内密にコソコソ手を回す
        なんざ真っ平御免だ。・・・俺の国じゃそんな事しようなら首ハネてるさ・・・!

スティレット:・・・貴方は、ご友人の枷になるくらいなら自ら命を捨てると?

ミカヅチ:時と場合によってだがな・・・。今はまだその時じゃねぇ、それに思い出したんだけどよ・・・。
        さっきまでメロウメロウ言って躍起になってたが、俺の真(まこと)の目的はメロウじゃなくて親父の捜索だ
        アメリアやハーネルだって世話んなったとは言ってるが、俺の肉親だ。親子でケリつけなきゃ話にならねェ

スティレット:・・・・・・。

ミカヅチ:道理は無理で押し通してやる・・・それが俺達「魔導斬」、アザイ家の血だ
        ダチを裏切るマネは俺はしねェ、だけどな・・・往く路(みち)阻む者は元が友だろうと血縁だろうと叩き潰す!

スティレット:・・・今が、その時であると。私が貴方の往く路を阻もうとしていると・・・

ミカヅチ:退(ひ)いてくれ・・・。あと一歩なんだ、お前は

スティレット:「ガンスリンガー」を知ってしまった以上、これ以上煮詰められては組織、そしてお嬢様にも危険が及びます

N:瞳を閉じた少女、同時に月が雲に隠れ、照らされていた2人の視界は暗くなる
   静寂した空間に突如金属音が響き渡る。雲の掃けた月明かりが再度2人を照らすと、少女の左腕から黒光り
   する細長いバレルが、ミカヅチへと向けられていた

スティレット:・・・・・少し、眠っていただきます。


アルバート:ヒトというのは時に強欲・貪欲になり、前や周り・・・ヒトが見えなくなる
          目的の為に手段を選ばず、犠牲も当たり前だと思っている。完遂するのは己だと、な・・・
          がむしゃらに走るのは構わない、だがな・・・決して周りを見失ってはならない!

          次回「振出にて弾丸再び(-スイングアウト-)」。ミカヅチ、お前は彼女を護る為にどんな生き方をしたんだ!?



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