Mellow〜海面に咲く華〜 第九話「振出にて弾丸再び(-スイングアウト-)」



登場人物

♂ミカヅチ・アザイ 17歳 行方の分からぬ父親を探すため妹と共にヴァルハラへ転校してきた本編の主人公
                         普段はフランクな性格だが、実は不真面目万歳の皮を被った屈強な「武人」

♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチと同じクラスになる国のお嬢様だが、お嬢様という特別視を嫌う。
                            彼女自身もお嬢様には見合わぬ天真爛漫な性格をしているが魔法剣士の腕は一流

♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、エリダンヌ家で製造された戦闘型アンドロイド。
                    感情を持たない割には、若干ドジっ娘気質(分かりにくいけど)

♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、共にヴァルハラへ転校してくる。
                      重度のブラコン。ミカヅチを慕ってる。最近レベッカに狙われてます

♂エリダンヌ国王 41歳 アメリアの父親にしてアトランティスを納める国王。親バカ
                        アルバート同様昔からコンゴウとの付き合いがある、大らかで(色んな意味で)アグレッシヴなおっさん



※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※


役表(♂2:♀3:N1)
♂ミカヅチ:
♂エリダンヌ国王
♀アメリア:
♀ミズチ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:



ミズチ:ふんふんふふ〜ん♪・・・よしっ、下ごしらえ完了!
      後はオーブンに余熱入れてー・・・っと、煮込みも時間かかるかなぁ・・・?
      ・・・あっ!今のうちに洗い物片付けておかなきゃ

ミズチ:きゃっ!?・・・・・あぁ〜、やっちゃった・・・。
      しかもコレお兄ちゃんのカップなのにぃ!・・・はァ・・・

N:夕食前に台所で皿を洗っていたミズチは、溜め息をつきながらチリトリに
   割れたマグカップを掃いていく。時計は既に19時を回っていたが、ミカヅチは戻っていないらしい

ミズチ:お兄ちゃん・・・どこ行ってるのかな・・・?


ミカヅチ:第九話「-スイングアウト-」


N:エリダンヌ邸。自室のベッドで、寝巻姿のまま寝そべり窓の外を仰ぎ見ているアメリア
   その瞳には覇気が無く、ただただ茫然と時が過ぎるのを待っているかのようだった。
   ドアのノックと共に部屋に入って来たのはエリダンヌ国王、釣られるようにアメリアは身体を起こした

アメリア:お父様・・・?

エリダンヌ国王:起きていたか。・・・もうすぐ夕食の時間だ、着替えろとは言わないが
              下に降りてきたらどうだ?その分だと風呂もまだだろう?

アメリア:うん・・・。でも、もうちょっとだけ

エリダンヌ国王:ふむ・・・お前がこうもあからさまにヘコんでいるのも珍しいものだ。
              ただ、調査の失敗だけでお前がそうなるとは思えないのだが・・・

アメリア:私・・・自分があんなにも弱く使えないなんて知りもしなかった
        先生やミカヅチさんがあまりにも場慣れしすぎていて最初はみんな付いて行けなかった・・・
        でもスティレットまで加勢して、挙句の果てにはハーネルさんまで割り切っちゃった・・・

エリダンヌ国王:それでお前は、ただそれを眺める事しかできなかった・・・と

アメリア:だって・・・!今が魔獣であるとはいえ、元々人間だったのよ!?
        ・・・それは遠まわしに・・・人間を殺すのと同じじゃない・・・!

アメリア:でも・・・私は誇り高き「光の騎士」である以上、あらゆる闇を倒さなきゃいけない・・・
        だけど怖い・・・。騎士の称号を持っているのに自分がこんなにも小さい人間だったなんて・・・

エリダンヌ国王:・・・スティレットが元々戦闘用のアンドロイドだという事は知っているだろう
              それに忘れたのか、ミカヅチ君はコンゴウ殿の・・・「魔剣」を継ぐ武人だという事を。
              だがその人間離れした技術でさえも、私は心の何処かでこの国の未来を託してしまっている

アメリア:・・・・・・。

エリダンヌ国王:だがなアメリア・・・。お前はエリダンヌの血を引く、学園最強の騎士だ
              確かに今は小さいかもしれん、だがお前の魔力量・そして身に付いた技術は嘘は付かない!
              彼らは・・・お前が一皮剥けるのを待っていると私は思っている

アメリア:お父様・・・。私は、今でも高みを目指す事はできるの?

エリダンヌ国王:決して遅くはない・・・。騎士としては学園最強でも、ミカヅチ君、アルバート先生・・・
              お前の上に立つ人間は居る。まだ若いんだ、いくらでも手を伸ばし足掻けるぞ

アメリア:ミカヅチさんや、先生に追いつく・・・私の更なる高み・・・。
        ・・・ありがとう、お父様。後ろ向いてちゃ、いつまでも皆のお荷物だよね、私

エリダンヌ国王:あぁ!私の自慢の娘なんだ、今のままで終わるワケがないだろう?
              さ、食事にしよう。もう準備も終わっている頃だろう

N:そういって国王が席を立つと、部屋ごとに設置されている通信機が鳴る

エリダンヌ国王:ん?・・・私だ、あぁ、もう夕食の準備は終わっているのか?
              ・・・なんだと?もう19時を回っているハズだろう、本当なのか?

アメリア:・・・お父様?

エリダンヌ国王:・・・分かった、捜索班を編成し30分後には出してくれ。頼んだ・・・。
              アメリア、スティレットが未だに家に戻っていないそうなんだ

アメリア:まさか!?遺跡捜索以外の日は必ず17時には戻っているのに・・・?

エリダンヌ国王:(何も起きていなければ良いのだが・・・)


N:夕闇に覆われる学園の屋上。機銃のバレルをミカヅチに向けているスティレット
   ミカヅチは立ち尽くしたまま、しかし睨むようにスティレットの目から目を離さずにいた

スティレット:・・・何故、抜かないのですか?

ミカヅチ:この通り、俺は丸腰なんでな。・・・今の俺に剣術は使えない
        ・・・物騒な奴だ、「眠らせる」というのに向けてんの7ミリじゃねェかよ

スティレット:ご安心ください、装填されているのは麻酔弾です。
            ・・・ただ、狩猟用なので「普通の人間」には致死量かもしれませんが、
            貴方を止めるにはこれくらいは必要であると判断致しました

ミカヅチ:成程ね、協力しなけりゃ力づくでも俺を連れて行く寸法か・・・。
        だがどの答えもノーだ、協力もしなけりゃ今ここでお前にノされる気でもねェ

スティレット:武器も持たない丸腰でよく言えますね・・・。それでは、お休みなさいませ

(パンッ・・・!)

スティレット:!?ッ・・・消えた!?

ミカヅチ:麻酔弾は云わば先が注射器のようになっている、普通の弾丸と違って速度が遅い・・・。
        ・・・悪いが発射を見送ってから動いても俺には十分だ

N:スティレットが気付いたときには、既にミカヅチが居た場所は抉れた金属のフタがあるだけだった
   すぐさま後ろを振り返ると、足の裏から微量の煙を出しながら立っているミカヅチが居る

スティレット:「雷脚振跳(らいきゃくしんちょう)」・・・。発生させた雷の磁力を操作し、
            踏んでいる金属と自分の身体を同じ磁極にする事で、自身を弾き飛ばす技術・・・。
            しかし、今の貴方がいる下に金属はありません。・・・大人しく撃たれてはどうです?

ミカヅチ:言わなかったか?麻酔弾如き、撃ったのを確認してから動いても問題は無い
        この技を使ったのは、あくまでお前の後ろに回り込む為だけだ

スティレット:ならば何故仕掛けないのですか?能書きを言う時間の余裕すらあったというのに

ミカヅチ:お前の身体や服に万が一、傷をつけてみろ。・・・アメリアの反応が目に見えている

スティレット:ご安心ください。・・・エリダンヌの者には「アルバート教諭の急な徴集」と
            銘打って、遺跡の残骸処理と報告しておきますから。

ミカヅチ:そうかよ・・・。それにしてもだ、攻撃そのものはしない。お前が諦めるまで待つ

スティレット:ッ・・・!時間の無駄です・・・!

N:スティレットは左腕の機銃を戻すと、右手首のギミックからアサルトナイフを出現させる
   勢いよく踏み込むと、一瞬にしてミカヅチの懐まで潜り込み喉元を目がけて突きを放つ。

   その瞬間、ミカヅチの右眼が鈍く光る。ナイフは右頬の薄皮を掠め、ミカヅチの左手が
   スティレットの手首を掴んだ。右手は肩を捕えると、スティレットがいくら力を入れても動かない

スティレット:(動かない・・・ッ!生身の人間の力で私が・・・。近接戦闘での一瞬すら
            見切られた、この男の前には弾丸より遅い動作は止まって見えるというの・・・?)

スティレット:くッ・・・前から聞きたいと思っていました・・・。貴方は・・・一体何者なんですか!?

ミカヅチ:東洋の小さな島で普通に生まれ、単に物心ついた時から傍に刀があった・・・。
        ただそれだけの人間さ。・・・ただ一つ、コンゴウ・アザイの息子という事を除いてな・・・!

スティレット:やはり裏がありましたか・・・ッ・・・。その人間離れした肉体と戦闘技術、
            貴方は今までただの学生ではありませんでしたね・・・?ッ・・・用心棒、ヒットマン、
            ・・・それとも、その「魔剣」で幾多の命を奪ってきたアサシンですか?

ミカヅチ:止せよ・・・。「魔導斬」は人っ子ひとり護れやしねェ、クソ野郎の習う技術だ

スティレット:・・・言っている意味がよく分かりません。それに・・・スキだらけです

N:両手の塞がったミカヅチの懐に、スティレットの左腕が忍ぶ。そして響く一発の銃声・・・が。

スティレット:なッ・・・!(麻酔弾が・・・刺さらない?)

ミカヅチ:残念だったな・・・。狙えば一発でノックアウトな分、細工で固めやすいんだぜ?

スティレット:鉄板でも仕込んでいるのですか?ですが、別に心臓でなくともこの麻酔弾は十分効果
            を発揮します。・・・時が経ち過ぎましたので、早急に片をつけさせて頂きます。

(タンッ!タタンッ!)

ミカヅチ:・・・ふんッ!

N:ミカヅチは自身の制服の上着を剥ぎ取ると、目の前に振り投げる。
   盾となった上着に麻酔弾の威力が吸収され、上着もとろも虚しく地に落ちてしまう。

ミカヅチ:同じだ!俺もお前も・・・。人間に生まれたか、アンドロイドとして生まれたかの違いだけだ!

スティレット:(麻酔弾、残弾ゼロ)・・・貴方は別の道を歩めていたのかもしれませんが、
            私は元からその目的の為に生み出された・・・。だから貴方とは違います、貴方は恵まれている・・・

ミカヅチ:ったく・・・仕方ねェ。今に分かるか・・・・・・来いよ、殺す気でな

スティレット:・・・アクセルエッジ、お休みなさいッ・・・!・・・ッ!!?

ミカヅチ:・・・同じ技が二度も通じると思うなよ、呼吸は読めなくとも・・・癖を読む事はできる・・・!

スティレット:(また塞ぎ込まれた・・・。そう、この人間離れした肉体は・・・!・・・肉体?
            腕に刻みこまれている無数の生傷、そして・・・手術痕!?この人は、この身体は一体・・・!?)

ミカヅチ:スティレット、取引ってヤツをしようぜ・・・?お前、身体の魔力や熱源探知みてぇなの出来るだろ?
        診てみろよ、俺をよ・・・!そいつが今、俺の出せる目一杯の答えにしてくれて構わない。
        ・・・だけどな、お前が今見たモノは全部・・・忘れるか、お前ん中にしまうかにしてくれ・・・。

スティレット:・・・その刻まれた痕(きずあと)以外に、貴方の秘密が・・・?

N:スティレットが、まるで好奇心というものを燻られたかのように目の機能を切り替えた。
   その瞬間、心を持たない機械とは思えない程、驚愕の表情をしたスティレットは、腕の力を一気に抜かしてしまう

スティレット:・・・ミカヅチ様・・・貴方は、一体・・・?幾多の研鑚どころの話じゃない・・・
            貴方は自分の身体に・・・その痕は一体何をしたのですか・・・!?

ミカヅチ:すまない・・・今は、今だけは言う事はできない・・・。分かってくれ・・・

スティレット:同じ・・・。そうでしたか・・・確かに、生まれ方は違えど私と貴方は同じ・・・。
            闘いという宿命から逃れる事のできない、哀れな生まれ方をした・・・

ミカヅチ:この身体ひとつであいつを・・・ミズチを護る為の研鑚を積んできた。
        お前もそうだろう?お前は今、アメリアを護る事に徹している・・・。己の手を血で染めてでも

スティレット:仰る通りです。・・・ミカヅチ様、今日のこの出来事は白紙に戻して下さい。
            貴方には、そもそも「選択肢も時間も無い」という事はわかりました、組織の引き込みも中止します

ミカヅチ:そうか・・・互いに了承した。明日からは、いつも通りと行こうじゃねェか

スティレット:はい・・・。くれぐれもご内密に・・・。
            ・・・エリダンヌからの迎えが校門に居らっしゃるようです、お送り致しましょう

ミカヅチ:そか。すまん、助かる・・・。こりゃ、ミズチに怒られちまいそうだな

スティレット:お互い様ですね・・・。では、参りましょう

N:19時は30分を過ぎたところで、ミカヅチはようやく自宅に辿り着いていた、がしかし
   待っていたのは夕食ではなくミズチの説教だった。頬を膨らますミズチの前で正座しているミカヅチ、
   体格差もあって相変わらずミズチは小さいが、何ともシュールな光景である

ミズチ:お兄ちゃん分かってる?私達がいつも何時に夜ごはん食べてるか!

ミカヅチ:ハイ・・・19時過ぎデス・・・

ミズチ:もうすぐ20時だよ?いつものお兄ちゃんならもう食べ終わる頃の時間だよ?

ミカヅチ:ハイ・・・すんません。・・・いやな、さっきも言ったけどよ・・・
        先生と前の遺跡の後処理させられてたんだから、車移動で自由効かなかったんだって・・・

ミズチ:ふんっだ!お兄ちゃんなんか魔獣に食べられちゃえ!・・・というのは冗談でね、
      実は私も洗い物中にひと騒動あって、ごはん作るの遅れちゃったんだ・・・。
      オーブン使ってるし手鍋は火にかけたばかりだから、20時過ぎになっちゃうかも?

ミカヅチ:あぁ、さいですか・・・。なら、先に風呂頂くよ。無駄に汗流しちまったからな

ミズチ:はぁい、ごゆっくりー。・・・あぁ、もうっ相変わらず上着そのままにしてぇ!
      よいしょっと・・・へへ、やっぱ大きいな・・・お兄ちゃんの上着。
      ・・・あれ?胸元がザラついて・・・・・・、これ・・・弾痕・・・?

N:ミカヅチは脱衣所でシャツを脱ぎ、カゴに投げ捨てる。鏡の前に立つと映る自分の身体
   腕や胴体に深く刻まれた傷痕、所々にある大きな手術痕。・・・そして

ミカヅチ:(そうだ・・・俺はあいつを護る為に、この身を犠牲にしてまで研鑚を積んだ・・・。
        だからもう失うワケにはいかん・・・。この生活も、あの温かな笑顔も・・・!)

エリダンヌ国王:おぉスティレット、やっと戻ってきたか

スティレット:申し訳ございません国王様・・・、教諭の急な呼び出しで動けずに―・・・

エリダンヌ国王:慣れないで見え透いた嘘は付くものじゃない・・・ミカヅチ君に会っていたのだろう?

スティレット:ッ・・・・・はい

エリダンヌ国王:まぁ、その顔じゃ色々とあったのだろうが・・・敢えて聞かん事にするよ
              ・・・アメリアは部屋にいる。心配していたから、顔を見せに行きなさい


スティレット:・・・お嬢様、お身体の具合は・・・あっ

N:スティレットがアメリアの部屋のドアを開けると、寝ているアメリアの姿は無かった。
   代わりにベランダで魔力を発動し、手のひらに集中させているアメリアの姿があった

アメリア:・・・・・あっ、スティレット!よかった、帰っていたのね?

スティレット:はい、ご迷惑をおかけ致しました・・・。もう、休まれなくて大丈夫なのですか?

アメリア:うん!・・・もうこれ以上、チームの皆には迷惑かけられないから・・・。
        ・・・あの人、ミカヅチさんにも・・・失望や幻滅、されたくないからね?

スティレット:お嬢様は強いです、だから・・・大丈夫です。
            (・・・何があっても、私がお嬢様を護ります・・・。何があっても・・・)



ミズチ:全てが良い方向に振り出しに戻って、カードと弾丸は揃う・・・。
      私は、お兄ちゃんへの負担を減らしたい。だから、強くなりたいからこの薙刀を取ったんだ
      誰かを守れなくても、せめて自分の身は自分で守りたい。欲を言えば、お兄ちゃんも・・・
      次回、「水色の初陣」。・・・みんな、私もがんばるよ!!



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