Mellow〜海面に咲く華〜 第十四話「夜叉」



登場人物

♂ミカヅチ・アザイ 17歳 行方の分からぬ父親を探すため妹と共にヴァルハラへ転校してきた本編の主人公
                        意外とフランクな性格と見せかけて不真面目万歳の皮を被った「武人」。若干シスコン

♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチと同じクラスになる国のお嬢様だが、お嬢様という特別視を嫌う。
                            彼女自身もお嬢様には見合わぬ天真爛漫な性格をしているが魔法剣士の腕は一流

♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトでミリタリーマニア、不真面目代表
                            一見チャラい男だが、ミカヅチ同様なにかとアツいものを秘めている

♂コンゴウ・アザイ 42歳 ミカヅチ、ミズチの父親で、「魔導斬一刀流」の創始者
                        己にも他人にも厳しく、ジパングには名の通った武人。

♂Dr.スペリオン ?歳 メロウを追う組織「ガンスリンガー」の首領、スティレット他「STシリーズ」開発者
                    自分の興味以外の人間は、得のある実験動物としか思わない程のマッドサイエンティスト


※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※


役表(♂4:♀1:N)
♂ミカヅチ:
♂ハーネル:
♂コンゴウ:
♂Dr.スペリオン:
♀アメリア:
♂♀ナレーション:



N:王国の北東側に広がる、広大な樹海の区域。海に近づくに連れてその樹海は蒼い海水へと沈んでいる。
   その海を崖から見据える者が独り。灰色の髪に紺色の袴、白木の鞘に入る長いサムライソード。
   後ろで草木の折れる音が聞こえると同時に刀を少し引き抜くが、そのまま静止すると、すぐに納刀した

コンゴウ:・・・・・何の用だ。「ガンスリンガー」首領、Dr.スペリオン

N:メロウを追う組織の一つ「ガンスリンガー」、その首領であるDr.スペリオン。
   しかしコンゴウの後ろに居るのは量産型ST、スペリオンの声は通信でSTの中から聴こえていた。

Dr.スペリオン:アザイ先生、何故彼らを助け、正体を明かすような行動を取ったのでしょうかね?

コンゴウ:・・・何故?何故と問うか・・・

Dr.スペリオン:貴方の横槍が無くても彼等はあの魔獣は倒せたでしょう。ミカヅチ・アザイは最早あの
               我々の生み出した魔獣では歯が立たない・・・。

コンゴウ:だからだ。貴様の言うとおり、あやつ等にもう子供騙しなど一切通用せん。
        魂宿らぬもの共の牙では武人を狩ることは不可能。俺達を狩るのはいつだって同種・・・。
        それに俺が此処にいる事は既に掴んでいる、ならば無駄に隠れる必要など全く無い

Dr.スペリオン:・・・それで、5年ぶりに遭った自分の息子はどう変わられていましたか?

コンゴウ:皮肉でも言ったつもりか

Dr.スペリオン:どんでもない。単純に貴方の感想を聞きたかっただけさ、魔導斬の創始者のね

コンゴウ:・・・奴はまだ甘い。「魔導斬一刀流」は人を護る剣(つるぎ)にあらず、外道の業だ・・・。
        それを5年、たった独りの女を護る為に振るっている。未だ「迅雷」の名を受け切れぬ証か

Dr.スペリオン:成る程。しかしそんな事はどうでもよい、このままだと貴方から戴いたデータや研究成果は
               白紙になってしまいますよ?何のために多くの人間を魔獣へ変えてきたのか・・・

コンゴウ:貴様の研究など知らん。量産して邪魔をしたいのであれば勝手にすれば良いだろう。
        俺が貴様らに手を貸すのはあくまでメロウ関連の事を報酬にしているだけだ
        ・・・発展なき以上、俺は単独での行動を主にし、あやつ等とも接触することになるぞ?

Dr.スペリオン:おやおや、随分と面倒臭がりになってきましたねぇ。それとも、
               自分の最愛の者を前にして、自分自身が落ち着いていられなくなってきましたか?

コンゴウ:・・・話は済んだか?ならば此処から消えろ

N:相手の返答も待たず、コンゴウは刀に手を添えると、一瞬で量産型STの胴体を吹き飛ばした。
   4メートルは離れていた筈のSTの上半身はバラバラになり、そのまま爆散していった。
   刀を静かに納めると、コンゴウはエリダンヌ城を視界に収める

コンゴウ:ミカヅチ・・・。お前はまだ過去を清算できぬままでいるのか・・・


ミカヅチ:第十四話「夜叉」


Dr.スペリオン:・・・全く、東洋人は何故ああも自分の目的以外には無頓着なのかね・・・?

N:STが斬り壊され、砂嵐となった画面を尻目にDr.は椅子を回転させて後ろを向く。
   その視線の先には数体の量産型STが立っている。そしてその中心には生体ポッドが一つ建っていた

Dr.スペリオン:まぁそれは私も変わらないようだがね。私も自分以外は実験材料としか思っていないだろう。
               ・・・そうならない為にも、君や彼女にはとことん働いて貰わねば・・・ね


アメリア:行きますよミカヅチさん!

ミカヅチ:応、引き続き俺は防御の型(かた)しかせんぞ!

アメリア:はぁッ!せいッ・・・はぁあッ!

ミカヅチ:ッ・・・ふんっ!浅いッ!

アメリア:ぐっ・・・!たぁあっ!

ミカヅチ:ふんっ・・・!シッ!

アメリア:くッ・・・はぁ・・・はぁッ

ハーネル:アメリア、今日はもういいだろ?もう訓練実習の時間終わっちまうぜ?
        最初の1コマ以外の2コマ分ブッ通しじゃねぇか。ここ最近、ミカヅチに遊ばれすぎだぜ?

アメリア:はァ・・・。そうですよね、それにミカヅチさんは防御しかしないというのに・・・
        流石は対魔導剣術です・・・。油断も隙も一切見せない

ミカヅチ:と言ってもよ、中等部ン時から親父の剣技講習を習っていたんだろ?
        一度目の模擬戦で手ェ抜いたことは謝るが、「騎士」の称号を持つに値する魔法剣士になってるじゃねぇか

ハーネル:流石に次元が違うんだよ。魔法と剣技フル活用してるアメリアに対してお前は剣技だけで十分なんだ

アメリア:そうですね・・・。よく思うんですが、ミカヅチさんって、攻撃そのものに魔力を使用する事が
        少ないように見えるんですが、技の使用時にしか使っていないんですか?

ミカヅチ:いや、俺の魔力値自体は恐らくハーネルの5分の1、なるべく身体強化にしか使っていないんだ

ハーネル:5分の1だァ!?って事は魔力値だけは最低のCマイナスなのかよ!?

ミカヅチ:あぁ、っても「雷脚振跳」とかも常に魔力を使用しているワケじゃない。
        「何か一味足りん」って塩をひと摘まみするような場合に使っている

ハーネル:隠し味の調味料レベルであの身体能力かよ・・・。生身で弾丸斬り払いやがるしコイツ

ミカヅチ:そういやコッチ来てから全然触れてなかったんだけどよ
        この学園での親父の評価ってのはどうだったんだ?一応講師やってたんだろう?

ハーネル:あまり思い出したくないレベルで厳しかった。戦闘中のお前の性格が常に出てるようなモンだ

ミカヅチ:厳しいのかソレ?

アメリア:なんというか、座学は分かりやすいんですけど、剣技講習は超絶スパルタでしたね・・・。
        元がコンゴウ先生の思考ですから、皆にできない事をさも当然の如く授業に入れてるんですよ

ミカヅチ:例えば?

コンゴウ:丸太すら綺麗に斬れずして魔獣の胴が斬れると思うな!!

アメリア:・・・とか

コンゴウ:西洋刀の耐久値は脆い!なれば刀身に負担をかけぬよう物体の重心と捉え、垂直に刃を振り下ろせ!

アメリア:・・・とかですね

ミカヅチ:・・・まぁ、そんなもんだろうな

ハーネル:サムライソード基準とか無理ゲーじゃねぇか!

アメリア:剣技ですから魔力も使用できないですし、そう考えると魔力の使えない状況で生身で戦う事を
        想定したら、私は講習受けて良かったとは思いましたけどね

ハーネル:ま、アメリアのレイピアは軽くて頑丈だからな。斬れずとも簡単にモノは貫けるだろ

アメリア:そうだミカヅチさん。私あなたに聞きたいことがひとつあったんです

ミカヅチ:ん、なんぞ?

アメリア:コンゴウ先生の使っていたサムライソードと、ミカヅチさんのサムライソード・・・。
        見た目も長さも違いますよね?二人のは、別物なんですか・・・?

N:アメリアの言葉を聞いた瞬間、ミカヅチの表情が一瞬強張ったようにも見え、アメリアの背筋が凍る。
   だがミカヅチがため息をつき、目を閉じるとその威圧から解放される。

ミカヅチ:そうだな・・・。戦場(いくさば)で背を預けるお前等には、もう話していいかもしれん。
        俺と親父の違い、俺が未熟ゆえ・・・「迅雷」を完全に襲名しきれぬ理由(わけ)

ハーネル:お前が・・・未熟・・・?


コンゴウ:「魔導斬一刀流」は人ひとり護る事の出来ぬ外道の業・・・


ミカヅチ:親父はたまにそう呟いていた。・・・俺はあえて聞き流していたけどな。
        たしかに親父と別れるまでの間、何かを護りながら闘う術を俺は教わっちゃいない
        俺が「ミズチを護る」と何度も言うたびに、親父の眼は何かを哀れむような色を灯していた

アメリア:では、元々コンゴウ先生とミカヅチさんの解釈の違いがあったと・・・?

ミカヅチ:そうとも言えるが、そうとも言えない。「魔導斬」を会得した俺は紛れもない人殺しだ
        親父が何のためにこの流派を作ったのかは知らんが、俺はミズチを護りたくて力を求めた。
        そして手っ取り早いのが「魔導斬」の会得。・・・俺が記憶を飛ばすまではそう思っていた


コンゴウ:ミカヅチッ!?・・・おい、しっかりしろ!ミカヅチィッ!!?


ミカヅチ:(そこからだ、あの親父の叫び声がガキの頃の一番最後の記憶・・・)
        結局、親父が消えて継承できなかった俺は、未だにこのナマクラ刀使わされてるハメになったんだ

ハーネル:ナマクラ・・・?

アメリア:「脆くて切れ味もパッとしない」って事でしょうか・・・、そのサムライソードが・・・?

ミカヅチ:手入れは入念にやってるけどな、ガキの頃から使わされてる只の打刀(うちがたな)だ

ハーネル:あんだけ離れ業やらかしといて・・・。お前いつか後ろから刺されるぞ?

アメリア:そういえば、記憶が次に訪れたのはいつなんですか?

ミカヅチ:あー・・・、14か15の時か。もっともその時はすでに親父はコッチ来てただろうけどな

ハーネル:うーん・・・

アメリア:・・・ハーネルさん、どうしました?

ハーネル:いやな、どうも煮え切らなくてな。・・・コンゴウ先生って俺等が初等部入った時に来ただろ、
        ミカヅチがコンゴウ先生と修行に出たのが6歳あたり。つまり俺等が初等部に入るときだろ?

アメリア:・・・・・あっ!

ハーネル:お前が修行に来た国って、アトランティスなんじゃねぇのか?

3人:・・・・・・・

ミカヅチ:無きにしも非ず・・・。というよりは、一番有力な考えと捉えたほうがいいな・・・

N:3人の間に少しの静寂が訪れる。微妙な謎の多いアザイ家の糸が少しずつだが解れかけているのだ。
   だが一人、やはりアメリアだけが複雑な表情を隠しきれないままでいる。

ミカヅチ:なぁ・・・お前等が親父に習ってる時、何か魔力は使っていたか?

ハーネル:コンゴウ先生に魔力・・・。いや想像できねぇな、常にサムライソード一本だったからな

アメリア:えぇ・・・。魔力は無いと豪語もしていましたから・・・

ミカヅチ:そうか・・・。


N:ミカヅチが後ろを振り返ると、訓練施設の吹き抜けからエリダンヌ城の上部が見える
   別の場所、樹海の奥底ではまだ動いていないコンゴウが、未だ城を眺めていた。

コンゴウ:・・・メロウの在り処を知って、魔導斬を創って早20年。誰がこの世界を束ねた?
        お前の願いは叶った、その結果が今の世界・・・。代償はその肉体そのものだ。
        変えられた世界に興味は無い。本来は俺等もメロウも存在してはならない・・・
        ・・・懺悔は早いほうが得策だ。見つけてみせろ「迅雷」・・・ミカヅチ・アザイ。


ミカヅチ:(上等だ・・・。あんたが悪魔に魂を売ったのなら、俺もその悪魔を利用するまでだ)

アメリア:・・・ミカヅチさん?

ミカヅチ:・・・ん?どうしたアメリア

アメリア:いえ、城に何か見えるのかな・・・って思いまして

ミカヅチ:なにも。・・・ただ、親父も見てるんじゃねぇかな・・・と思ってな
        さてそろそろ終了か・・・悪ィ、先戻ってるわ

アメリア:あっ・・・はい

ハーネル:最近、物思いに耽る事が増えたな

アメリア:そうですね・・・

ハーネル:バーカ、お前もだよ。これからの捜索に支障出ねぇなら構わんけどよ

N:アメリアの肩を軽く叩くと、ハーネルも訓練場から去って行く。
   少し俯いていたアメリアだったが、気を取り直したかキッと前を見据えて歩き始めた

   暗闇にモニターの明かりが照明となる一室。Dr.スペリオンはゆっくりと椅子から立ち上がる
   量産型STの列を歩き進む先で見上げる生体ポッド。自然と笑いが込み上げてきた

Dr.スペリオン:ククク・・・アザイ先生、確かに「魔導斬一刀流」は素晴しい技術だ。
               対人戦闘におけるエキスパートの武人が対魔術戦闘、ソレは間違いなく「最強」に等しい。
               だが、それはサムライソードあっての技術・・・。得物が使えなければ話にならん。
               ・・・君が我々との手を切るならば、私も君達は用済みになるのだよ・・・!

N:生体ポッドの中に気泡が発生し、中に入ってる「人間のような機械」の口がニヤリ吊り上る

Dr.スペリオン:くっくっくっく・・・ふはっ、はははははははっ!!!


アメリア:私はエリダンヌの騎士、ルキウスの無限光を持つ者・・・。
        罪深き者を裁き、人を殺める事なくこの地を守護するのがエリダンヌの宿命(さだめ)。
        人が死ぬのは耐え切れない。それでも、それでもミカヅチさん・・・貴方は私の・・・!

Dr.スペリオン:「魔導斬」は堕ちる・・・。それは私の手によってだ・・・!
               メロウは決して渡さぬ、アザイ家を皆殺しにてでも我々が手に入れ、この地を戴こう。

コンゴウ:そうだ、悪魔に魂を売ってまで手に入れた力など最初から必要が無かった・・・
        俺達は初めから外道、所詮は俺も大切な者は見放せずにいた未熟者・・・だからお前が・・・!

ミカヅチ:分かっている。・・・それが「魔導斬一刀流」に背く事となるならば、逆に利用すればいい。
        外道なら外道らしく、護るものを護ってから、勝手にくたばりゃいいだけの話さ・・・。



ハーネル:黒幕は笑う、潰せられる事が目の前に転がれば笑わずにはいられない。
        刀の煌めきと星の煌めき、二つの煌めきがぶつかった時、世界は変わるのか・・・?
        人間でも機械でも、魂は必ず宿るものであれば、救えたのはお前だったのかもしれない
        次回「RAVEN STEEL(レイヴンスティール)」。光は光でも、お前の光は冷たい


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