登場人物
♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチと同じクラスになる国のお嬢様だが、お嬢様という特別視を嫌う。
彼女自身もお嬢様には見合わぬ天真爛漫な性格をしているが魔法剣士の腕は一流
♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、エリダンヌ家で製造された戦闘型アンドロイド。
感情を持たない割には、若干ドジっ娘気質
♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトでミリタリーマニア、不真面目代表
一見チャラい男だが、ミカヅチ同様なにかとアツいものを秘めている
♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、共にヴァルハラへ転校してくる。
重度のブラコン。ミカヅチを慕ってる。最近レベッカに狙われてます
♂アルバート・ブーン 38歳 ミカヅチのクラス担任。就任15年目のベテラン教師
スーツをラフに着こなし、そこから見える逞しい肉体と煙草がトレードマーク。
♂救急隊員 20〜30代 エリダンヌ王国軍の誇る王国一の救命施設、救急救命隊の人間。終盤のみ登場のモブ
※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※
役表(♂3:♀3:N)
♂ハーネル:
♂アルバート:
♂救急隊員:
♀アメリア:
♀ミズチ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:
N:外もすっかりと暗くなってしまった王国。お世辞にも天気は良いとは言えない空気
リビングのテーブルに突っ伏しているミズチ、前には用意された夕食にラップをされていた。
もぞもぞと身体を起こすと光の無い目と意識が覚醒していく。
ミズチ:いけない・・・寝ちゃってたんだ・・・。ってもう20時!?お兄ちゃんは・・・!?
・・・・・まだ帰ってきてないの?靴は・・・あっ!?
(ガシャン)
ミズチ:またやっちゃった・・・。お兄ちゃんの食器これで2個目だよ・・・
N:その時ミズチの頭の中に前の出来事が過(よぎ)る。ミカヅチが夕食の時間に遅れて返ってきた時だ。
ミカヅチの上着を手にした際に気付いた、胸部の弾痕。その時は何も言わなかった二人、しかし今度は違う・・・。
不安で胸がいっぱいになった表情のミズチは、急いで部屋へと駆け出していった
ハーネル:第十六話「サムライショウダウン」
スティレット:・・・以上が、今週の大まかなスケジュールとなっております。
アメリア:うん、ありがとうスティレット。・・・いよいよ探索自体は架橋に入り始めてきたわね
スティレット:はい、我々の第一目標はあくまでコンゴウ教諭を見つける事です。
遺跡そのものもかなりの数を減らしてきましたから。もう虱潰しにはならないでしょう。
アメリア:そうね・・・。ねぇスティレット、もしコンゴウ先生が見つかったとして、その後ミカヅチさん、どうするのかな・・・?
スティレット:・・・と、言いますと?
アメリア:私達、なんだかんだ言ってミカヅチさんがコンゴウ先生に会ってどうしたいのかって聞いてないじゃない?
そのままジパングへ連れて帰っちゃうのか、それとも・・・
スティレット:斬ってしまうのか・・・ですか?
アメリア:一度見つけたときのミカヅチさん、自分の父親の名をあんな憎しみに満ち溢れた声で叫んだでしょう?
ただ心配で来たのか、それとも何か一悶着あって因縁付けて来たのか・・・そう思ったのよ
スティレット:・・・・・彼が聞きたい事は、恐らく山ほどあるのでしょう
アメリア:・・・え?
スティレット:若くして「魔導斬一刀流」という人殺しの業(わざ)を身につけ、独りでミズチ様を御守りになられた。
この国の出来事ならば普通はミカヅチ様は殺人犯罪者です。それでも危険を顧みずこの地に立った・・・。
メロウとアザイ家に何の因果があるのかは分かりませんが、仮にも子を置き去りにした親ですから
アメリア:・・・・・。
スティレット:・・・お嬢様?
アメリア:あ、ごめん・・・。スティレット、なんか最近変わったなぁー・・・って
スティレット:そ、そうでしょうか・・・?
アメリア:前はそんなに自分の思ったことを熱く語らなかったでしょう?
「人間っぽくなった」って言うと言葉悪くなっちゃうから、「大人になった」って
N:ふわりと優しい微笑みを見せるアメリアは、その手を伸ばしスティレットの髪を撫でるように指を通していく。
スティレットは表情こそ崩さないが、目を閉じたまま黙って為すがまま。・・・しかし
スティレット:!・・・ご来客のようです。・・・カメラチェック
アメリア:こんな時間に・・・?お父様の知り合いかしら
スティレット:いえ・・・・・・ミズチ様です・・・。
アメリア:・・・えっ!?
ハーネル:な、なんだってェ!ミカヅチが!?
アルバート:未だに戻らないだと・・・!?
N:エリダンヌ邸に飛び込んできたミズチによって連絡が飛び交い、レベッカを除く探索チームが徴集されていた。
夜の街を、全員を乗せた車がヴァルハラへ向かって猛スピードで駆け抜けていく。
ハーネル:確かに、あの補習授業だってどんなに遅くても19時にゃ終わる。校門が閉まるのはその5分前だ
ミズチ:私達の家から学園までは私の歩幅だと歩いて約30分ちょっとです・・・。
アルバート:つまりどんなに遅くても19時半には家に到着しているハズだな・・・。
念のために学園の警備課に見回ってもらっているが、未だに連絡は無い
ハーネル:・・・あいつ、独りで遺跡行ったワケじゃねぇだろうな・・・?
ミズチ:そんな・・・!
アルバート:大丈夫だ、あくまで可能性の話・・・。彼が俺達に黙って行動を起こすとも思えん
ハーネル:ただよ、最近のあいつ・・・かなり周り見えてないぜ?
アメリア:そういえば、レベッカはいつ来るの?
ミズチ:さっきまで駅前に用事があったそうです・・・なので少し街中の明るい場所を探してから合流します
アメリア:・・・そう。・・・ミズチちゃん
ミズチ:・・・・・あ
アメリア:きっと大丈夫・・・すぐ見つかるよ
ミズチ:・・・私も、そう思いたいんです。・・・でも
アメリア:・・・でも?
ミズチ:この国に来てから、これが初めてじゃないんです・・・。だから不安なんです
スティレット:・・・・・。
アルバート:よし、職員駐車場に車を止めるぞ。外と中で手分けして探そう。
N:アルバートが駐車場に車を止めた瞬間、ミズチは一目散にドアを開け駆け出していってしまった。
アメリア:ミズチちゃん待って!?
ハーネル:おいミズチっ!?あぁクソっ、先生!俺たちゃミズチ追うぜ!?
アルバート:(不安で何も考えられん状態になっている・・・。当たり前だ、実際のところ俺達も不安だ)
・・・・・めんどくせぇ!鍵なんざ掛けなくて十分だ!
ミズチ:お兄ちゃん!どこ!?返事をしてぇっ!
アメリア:いたっ、ミズチちゃん!・・・一人は危ないよ、私も一緒に行くわ
ハーネル:アメリア、俺たちゃ真正面から突っ込む、先生にゃ訓練所方面任せっから、裏口方面を攻めてくれ
アメリア:分かりました。行こうミズチちゃん!
ミズチ:は、はいっ!
ハーネル:(念のために、ガバにマグ突っ込んでおくか・・・)っし!行くぞスティレット!
スティレット:畏まりました。赤外線暗視を起動します
N:ハーネルは拳銃とフラッシュライトを構えた状態で学園のメイン玄関を突っ切っていく
その後ろをスティレットが追いかけていくが、彼女も左腕にはバレルを忍ばせていた。
ハーネル:チッ・・・ココもハズレか。暗闇の城なんて不気味で仕方ねぇ・・・
先生、俺だ。高等部一階はほぼ掌握したが、人っ子ひとり見当たりゃしねぇぜ?
アルバート:あぁ、こっちも体育施設を粗方洗い流したがダメだ、訓練施設もロックが掛かっている・・・。
引き続き2階を頼む、俺はぐるっと回ってアメリア達と合流する。
ハーネル:了解。・・・なぁスティレット、まさか例の転校生がアクション起こしたってのは無いよな・・・?
スティレット:可能性に関しては否定できません。しかし仮にSTシリーズだとしても、ミカヅチ様に闇討ちが通用するか・・・
ハーネル:STシリーズって事は、恐らく新型だろ?量産機でかなりの性能あるんだから、何があるかわからねぇ。
あの液体金属なんて代物使われたら、流石にサムライソードや魔導斬でもヤバイぜ?
スティレット:ご存知でしたか、液体金属が実在している事を・・・
ハーネル:あぁ、最近になって西の開発地区で闇回りしてるらしい。あんなモン使うのなんて、ガンスリぐらいしかねぇだろ?
スティレット:左様です。私の腕部にも、いくらか液体金属が使用されております
ハーネル:成程ね・・・。強度と重量はそのまま、意のままに形状を変化させられる液体金属・・・。
たとえカンマ数ミリの薄さの板にしても、強度はミスリル・・・いや、オリハルコンの数倍はある
新型なら、あらゆる部位や武装に使用されてたって何もおかしくはねぇ・・・
スティレット:・・・仮にもし、その上を行くものが・・・
ミズチ:いやぁあああああああぁぁぁあああァァァッ!!!!!
ハーネル:何だッ!?
アルバート:裏口のほうか!?
スティレット:ミズチ様・・・!
N:闇夜を真っ二つに切り裂くほどの、ミズチの悲鳴がヴァルハラに響いた。三人は悲鳴の聞こえた学園裏口へ走る。
三人が同着で裏口へ到達し、最初に見えたのはアメリア。立っているだけのアメリアだった。
だが、彼女の足は小刻みに震え、口を両手で覆った状態で顔は完全に青ざめていた。一歩一歩、ゆっくり後ずさりしながら
アルバート:おいアメリアっ!何があった!?ミカヅチはいたのか!ミズチはっ!?
アメリア:(涙交じりの目を見開いたまま首を横に振って)・・・うっ、っぷ・・・!・・・うぅうううぅ・・・ッ
N:アルバートの手を振り払ったアメリアはそのまま陰まで走り、跪いて吐き出してしまった。
事の重大さを察知した3人が、ミズチのほうへ目をやる。
アルバート:まさか・・・!
ミズチ:あ・・・あぁ・・・・・あっ・・・・・
スティレット:・・・・・ッ!!!
N:膝の落ちたミズチ、その後ろでスティレットはカメラにズームをかける、皆の前にあるものを捉えるために。
やがて3人の顔が驚愕の色を一斉に灯し始めた。
ミズチの数メートル前にある紅い海。一番前には紅く染まり上がった腕、肉塊。
辺りに飛び散る黒いもの、桜色のは何か。横に雄雄しく刺さる銀色の短い刃。
そして其処には、左腕を失い、皮一枚骨一本でかろうじて腰と胴が繋がったミカヅチ・アザイが居た
無残に上半身をズタズタにされ完全に白目になった男が、生臭い蒸気を上げながら捨てられるよう横たわっていた・・・。
ミズチ:お・・・お兄ちゃあああああぁぁああぁあああぁぁぁんッ!!!!!
アメリア:うっ、うぅううぅぅッ・・・!げほっ!ごほっ・・・!
ハーネル:オイ、嘘・・・だろ・・・?
アルバート:武人が・・・墜ちた・・・?
ミズチ:いやぁあああッ!
スティレット:ミズチ様!危険です!落ち着いてください・・・!
ミズチ:お兄ちゃ・・・!嫌ッ離して!おに、お兄ちゃあああああぁん!!!
ハーネル:ミカ・・・ヅチ・・・ミカヅチィッ!!!
ミズチ:お兄ちゃん!お兄ちゃあぁん!?
N:二人がミカヅチという名の血の海へ駆け込み、足や手を真紅に染めながらミカヅチを揺さぶる。
しかしミカヅチは何の反応もなく、ただただ生臭い蒸気が満たすだけだった
ミヅチ:お兄ちゃん・・・いやぁあああああッ!!!
アルバート:ダメだ・・・!動かすな・・・
ハーネル:畜生・・・フザケんじゃねぇ・・・こんなのアリかよ!?
アルバート:スティレット!王国救命部隊のドクターヘリを呼べッ!!
スティレット:ですが・・・
アルバート:急げェッ!!!
ハーネル:無理だろ・・・、こんな、こんな状態なんだぞ・・・どう考えても殺されてるじゃねぇか!
アメリア:っく・・・うぅぅッ・・・ぐすっ・・・
ミズチ:お兄ちゃぁん・・・うぅうぅッ・・・
アルバート:・・・くっ・・・コンゴウさん、貴方なのか・・・!
スティレット:・・・アルバート教諭
アルバートなんだ!?
スティレット:救急救命隊の要請を通信で送りました・・・ですが・・・
アルバート:・・・間に合わないか
スティレット:いえ・・・。私が通信を送る10分前に、救命隊はこちらに向けて出動していると・・・
ハーネル:なッ・・・!?
アルバート:何だと・・・!?
救急隊員:居たぞ!あれだ!
N:その途端、ヘリの音がヴァルハラに響いた。ヘリのサーチライトが全員を捕らえると、そのまま着地。
ドアが開くと救急隊が救命具を引きつれて駆けてくる
救急隊員:お待たせしました!今すぐ負傷者を王国救急救命へ輸送致します!
ハーネル:あんた!作業しながらでいい!要請連絡はどっから飛んできたんだよ!?
救急隊員:はい、エリダンヌ国王から直接です!うわぁ、これはかなり酷い・・・
アルバート:国王様直々に・・・!?
救急隊員:えぇ、此処へ来る15分前、「知人の頼み」と要請がありました
・・・切断された腕はまだいけるかもしれないな・・・?
アルバート:知人・・・名は聞かされていませんか!?
救急隊員:・・・本来なら国王の直接申請は全て極秘にしなければなりません・・・
ですが、貴方達には公表してよいとの事も伺っております
スティレット:それで、クライアントの名前は・・・
救急隊員:よし運ぶぞ!衝撃を与えずにだ!・・・はい、コンゴウ・アザイという方です
アルバート:コンゴウ先生が!?
救急隊員:詳しい事は分かりません。それでは輸送致します、ご親族はいらっしゃいますか?
ミズチ:ぐすっ、わ・・・私・・・えぐっ・・・です・・・うっ
救急隊員:お乗りください、まだ間に合うかもしれません
ミズヂ:は、はい・・・
ハーネル:ケチ臭ェ事言ってんじゃねぇ!俺等も乗せていきやがれ!
救急隊員:・・・わかりました、ヘリだからと言って広い訳ではありません
アルバート:アメリア、大丈夫か?俺達もすぐ向かうぞ?
アメリア:はい・・・うぅっ
N:全員がヘリに乗る準備をしている時、スティレットは現場を再び見る
粉々になった肉塊と臓器が飛び散る血の海。鮮血が飛び散る建物の壁。
折れたサムライソードを拾い、もう片方も引き抜くと、スティレットはあるものを見つける
スティレット:これは・・・?試験管?空のと、未開封・・・
・・・壁に血文字・・・「RAVEN STEEL(レイヴンスティール)」・・・?
ハーネル:スティレット何やってんだ!早くしねぇといマジで手遅れになるぞ!!
スティレット:回収は終了しました、今参ります。
・・・サムライショーが終わる。やはり新型、彼の仕業ですね・・・?
救急隊員:フライワンより管制部、王立学園より負傷者を保護。尚、心肺停止状態で非情に危険な状態
緊急処置室のセッティングを求む。大量の輸血等が予想される模様
N:一握りの希望を乗せたドクターヘリが、アトランティスの夜空を切り裂いていく。
嗚咽を漏らすミズチは、それでもミカヅチの右手を離さないで、温め続けていた
ミズチ:武人は墜ちる?取り返しの付かない代償と懺悔を残したままで・・・。
護る者を護りきる前に墜ちてしまえば、外道にもなれず地獄の番犬の餌にもなれない
そのための代償がそこにはある。勝手に朽ちる事の許されない、外道になるために手に入れた代償が。
次回「鋼の救世主」。魔導斬にとって、血は消耗品と同じ。
TOPへ戻ろう、もう市町村ネタが無い