登場人物
♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチと同じクラスになる国のお嬢様だが、お嬢様という特別視を嫌う。
彼女自身もお嬢様には見合わぬ天真爛漫な性格をしているが魔法剣士の腕は一流
♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、エリダンヌ家で製造された戦闘型アンドロイド。
感情を持たない割には、若干ドジっ娘気質
♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトでミリタリーマニア、不真面目代表
一見チャラい男だが、ミカヅチ同様なにかとアツいものを秘めている
♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、共にヴァルハラへ転校してくる。
重度のブラコン。ミカヅチを慕ってる。最近レベッカに狙われてます
♂アルバート・ブーン 38歳 ミカヅチのクラス担任。就任15年目のベテラン教師
スーツをラフに着こなし、そこから見える逞しい肉体と煙草がトレードマーク。
♂レイヴン・ステイル ?歳 中等部3年の童顔な少年。つい最近転校してきたらしい
常にどこか楽しそうな表情をしているが、その正体はST-03「レイヴンスティール」
♂Dr.スペリオン ?歳 メロウを追う組織「ガンスリンガー」の首領、スティレット他「STシリーズ」開発者
自分の興味以外の人間は、得のある実験動物としか思わない程のマッドサイエンティスト
♂執刀医 30代〜 アトランティスが誇る救急救命隊の外科医。今までにいくつもの患者を救ってきた
♂第一助手 20代〜 救急救命隊の外科医。並みの外科医よりはそれなりの経験を積んでいる
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役表(♂4:♀3:N)
♂ハーネル:
♂アルバート:
♂レイヴン/第一助手:
♂Dr.スペリオン/執刀医/???:
♀アメリア:
♀ミズチ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:
Dr.スペリオン:くっくっくくく・・・ふははははははははッ!!!
遂に私の技術がサムライソードに勝った・・・。実に愉快だ爽快だ!
・・・ご苦労だった03(ゼロスリー)。残るアザイ家はあと二人だな・・・
レイヴン:それなんだけどねドクター。・・・多分、「迅雷」は死んでいないかもね
Dr.スペリオン:・・・何?
レイヴン:僕の計算じゃ、最後の一撃で「迅雷」の上半身と下半身は斬り離される筈だったよ。
強引に身体を捻らせて、辛うじて真っ二つは免れた。だから僕は振り抜いた後すぐ心臓を突いた・・・。
・・・でもね、貫けなかったんだよ?なんでだろうね?
Dr.スペリオン:しかし彼は君たちと違い人間だ。そこまで肉体を損傷させたならば、
即死でなくとも助かる道はなかろう?いくら王国救命でフルで使おうが無理だ
レイヴン:確かに、救命の技術ではどうしようもないと思うよ。
・・・自分自身の力でやるのなら、話は別だけどね?
Dr.スペリオン:・・・・・。
レイヴン:楽しみだよ「迅雷」。・・・君が「2度目の地獄」から這いずり上がって来るのが
ミズチ:第十七話「鋼の救世主」
第一助手:ダメです!輸血が間に合いません・・・!
執刀医:刺された箇所が心臓にもある、オマケに腹部の内臓はほぼ損壊している・・・
第一助手:何なのでしょうか・・・この発生している蒸気は
執刀医:炎熱魔力で切り裂かれたかで焼けた肉の煙だろう・・・。神経までは難しいが左腕は繋がった。
次に心臓の修復に移るぞ。・・・その前に人工臓器のスタンバイを研究部に回してくれ
第一助手:ハイ。・・・こちら緊急処置室、腹部内臓の人工臓器を一通りスタンバイしてくれ
N:ドクターヘリで緊急搬送された半死のミカヅチは、すぐに緊急処置室へ運ばれていった。
慌ただしい処置室とは裏腹に、室前の待合場は静寂に包まれていた
ハーネル:・・・・・。
アメリア:・・・・・。
ミズチ:うっ・・・ぐすっ・・・
アルバート:・・・・・搬送されて既に一時間・・・か
アメリア:・・・レベッカは・・・?
スティレット:連絡を回しました。現在こちらに向かわれています
アメリア:そう・・・
ハーネル:・・・んでねぇよな・・・?
アメリア:・・・え?
ハーネル:アイツ・・・死んでねぇよな・・・?
アルバート:ハーネル・・・
N:完全に肩が落ちた3人。アルバートとスティレットは何も言えない状態でいた。
緊急処置室は先ほどよりも騒々しく、クルーには焦りの色が隠れずに漏れ始めている。
執刀医:・・・なんだこれはッ・・・!?
第一助手:先生・・・これはまさか・・・
執刀医:肉片組織の一部を鑑定室に送るぞ!これはかなりマズイ事になりそうだ・・・
第一助手:せ・・・先生ッ!
執刀医:・・・信じられん・・・
アメリア:そんな!?お父様に連絡したのはコンゴウ先生じゃないですか!
アルバート:だが、現時点でサムライソードを超えられるのはサムライソードしかないだろう?
・・・あんな綺麗に真っ二つにできるのはコンゴウさん以外俺は見た事がない・・・
アメリア:なら何故・・・自分で斬っておいてわざわざ病院まで手配する必要が・・・!?
アルバート:それが分からないんだろう・・・!俺だって頭の中が滅茶苦茶だ・・・
アメリア:それに魔力の残り香は炎熱系だったハズです・・・
アルバート:クソッ・・・。全てが一致しなさ過ぎる・・・!
ハーネル:・・・どうするよ、スティレット
スティレット:・・・・・
ハーネル:今のこの状況で何言っても混乱するだけだとは思うけどよ・・・。
何もヒント見つからず今、内輪(うちわ)で一悶着あられても困ると思うぜ・・・?
スティレット:・・・はい
ハーネル:みんな・・・少し聞いてくれ。ミズチもちょっといいか
ミズチ:ぐすっ・・・は、はい・・・
アルバート:何だ・・・?
スティレット:まず・・・第一に考えられる候補は、ガンスリンガーの最新兵器です。
アメリア:なっ・・・
アルバート:最新兵器・・・!?バカな、今まで散々ミカヅチに斬り潰されていただろう!?
ヤツら、もう対「魔導斬」専門の兵器を造れたというのか?
スティレット:先週、中等部3年生に「レイヴン・ステイル」という名の転入生が来ました。
ですが正式にはST-03「レイヴンスティール」。私と同じ戦闘・護衛用のアンドロイドです。
N:スティレットが小型モニターに、ミカヅチの斬り倒されていた現場の写真データを映し出す。
後者の壁にこびり付いた血飛沫の横には、確かに血文字で「RAVEN STEEL(レイヴンスティール)」、と
ハーネル:コイツの出身はアトランティスの西、開発地区だ。出張教師を送っているってのに
わざわざ本校まで送ってきたってこたぁ・・・最初からミカヅチを狙ってたってワケだろうよ
アメリア:待って!?じゃあコンゴウ先生は?あの組織と一緒なハズでしょう・・・?
ハーネル:別にコンゴウ先生自体は元々ミカヅチを狙っていたワケじゃねぇだろ。
アルバート:しかしだ、サムライソードを超える技術を開発してしまった以上、
最早コンゴウ先生の力すらも必要じゃなくなっている事だろう・・・
ミズチ:それじゃ・・・お父さんも・・・?
スティレット:それは在り得ません。国王に連絡をしたのはコンゴウ教諭ですよ?
ミズチ:そうだ・・・そうだよね・・・
スティレット:サムライソードを超す技術は、恐らく液体金属を主(しゅ)とした武装。
ハーネル様の話では西で多量の液体金属の闇回りが動いているとの事ですので、
恐らく買い手はガンスリンガーでしょう。魔力が「魔導斬」に効かない以上
物理兵器を勝るのは物理兵器という事になるでしょう・・・。
ミズチ:(ますます分からない・・・)
アメリア:液体金属を「主」とした・・・?ってどういう事?
スティレット:・・・液体金属製の武器では、サムライソードを「斬る」事はできません
アルバート:何ッ・・・!?
ハーネル:ちょっと待て、どういう事だそりゃ!?
スティレット:サムライソードには、鋼の粘り気を増す為に材質に液体金属が含まれています。
数%含まれたその時点で強度はオリハルコンの3倍。純正で斬ったとしても、
あんなに綺麗に斬る事は理論上ですら不可能です。
アルバート:なら・・・その液体金属すらも超える材質をヤツらが造り出したということか・・・!?
スティレット:はい・・・。「焼き斬る」に近い何か特殊な混合材質かと
アルバート:何故・・・何故今までの事を俺に報告しなかった!?ハーネルもだ!
いつかの調査でガンスリンガーのアンドロイドを叩いたのは知っている・・・何故だ!?
ハーネル:お、俺だって知ってたのは液体金属までだ!それ以降は初耳だよ!
・・・それとスティレットの事だって・・・
アメリア:スティレットの事・・・?
ハーネル:あっ・・・
アルバート:・・・お前、どこまで知っているんだ・・・?
ハーネル:・・・・・。
スティレット:代わりに私がお答えしましょう
アルバート:スティレット・・・
アメリア:どうして・・・?
スティレット:・・・私がガンスリンガー製の機動兵器、ST-02「スティレット」だという事は、
ハーネル様とミカヅチ様は既にご存知です。
アルバート:・・・なん・・・
アメリア:嘘・・・
ミズチ:そんな・・・・
ハーネル:・・・・・。
スティレット:今までの情報はガンスリンガーの管制をハッキングして手に入れましたが、
恐らくあの組織は私に潜り込まれた事も承知しているでしょう・・・。
アルバート:わざと知られるように細工しておきながら、野放しにしているって事か
スティレット:はい・・・。03が完成した以上、恐らく私は・・・
N:スティレットが次の言葉を発しようとした瞬間、緊急処置室のドアが開かれる。
皆が一斉にドアの中へ振り向くと、そこにはミカヅチの姿はなく、執刀医の姿だった。
アメリア:先生・・・?
執刀医:まず・・・ご親族の方と、担任の先生だけで、こちらへどうぞ
ミズチ:は、はい・・・
アルバート:・・・わかりました。
アメリア:・・・行っちゃった
ハーネル:ミカヅチ・・・なんで運ばれてこねぇんだよ・・・マジなのかよ
スティレット:大丈夫です
ハーネル:・・・は?
スティレット:・・・ミカヅチ様の肉体は、あの程度では「死ねない造り」ですから
アメリア:・・・死ねない・・・?
執刀医:単刀直入に申させて頂きますが・・・。御患者様の処置は・・・
左腕を肩口から切断、剣による心臓部への突き、腹部内臓及び筋肉の8割損壊。
・・・当たり前と言っては悪いのですが、致死量を遥かに越えた出血量・・・。
この救急救命の技術ですら、どうしようもできませんでした。申し訳ございません・・・。
ミズチ:そんな・・・お兄ちゃん・・・うぅッ・・・!
アルバート:・・・間に合わなかったか・・・ッ!
執刀医:ですが・・・、一命は取り留めました。
アルバート:・・・・・はっ?
ミズチ:た・・・助かったん・・・ですか?
執刀医:はい・・・。普通であれば死亡されていても可笑しくはない状態でした。
・・・しかし、生きておられます。精密検査が終わり次第、病室へ運びます・・・ですが。
ミズチ:良かった・・・。お兄ちゃん・・・本当によかった・・・!
執刀医:1つだけ質問させて下さい
アルバート:な、なんでしょうか・・・?
N:言っても良いのか。といった表情の医師が、手に持っていたカルテやレントゲン写真を
机に置くと、若干何かに怯えるように唇を震わせながら、重い口を開いた
執刀医:彼は・・・、本当に・・・「普通の」人間なんですか・・・?
N:病室へ運ばれ、ベッドで眠りについているミカヅチを全員が眺めている。
全員が暗い表情。そう、ミズチ以外の全員が、ここで初めてミカヅチの身体を見てしまったからだ
ハーネル:・・・制服の下や私服がいつも長袖だったのは、こういう事だったんだな・・・
更衣室で着替える際も、何でいつも便所で着替えるんだと疑問に思っていたが、
やっと理由がわかったよ・・・。
アメリア:ミズチちゃんは、このこと知ってたのね・・・?
ミズチ:はい・・・。お兄ちゃんが修行から帰った日に、偶然ですが・・・。
N:ミズチがミカヅチの左肩を優しく撫でる。ミカヅチの身体は包帯ひとつ巻かれていなかった。
まるで特殊部隊の兵士を彷彿とさせる、鎧のような筋肉。しかしその鎧の表面には、
夥しい量の裂傷痕(れっしょうあと)、弾痕、抉られたような切り傷、そして縫い痕。
そして誰もが息を呑んだ光景。抉り散らされた筈の腹部が、既に塞がっていた事である。
アルバート:・・・常人を遥かに越える剣術、体術、跳躍力を支える為の筋力。
その秘密は、「ヒューマンチェンジ」に似た・・・自己再生能力
アメリア:そして・・・ッ・・・「魔心臓の移植」に伴う、人体強化手術・・・
ハーネル:・・・左腕はどうなったんだ・・・?
ミズチ:・・・神経も筋も・・・元通りに繋がっているそうです・・・。
ハーネル:・・・マジかよ
アルバート:外道の術(すべ)だ・・・。彼は既に、己の肉体をも犠牲にしていたのか・・・!
ミズチ:っく・・・ッうぅっ・・・ひぐっ・・・
ハーネル:ミズチ・・・
ミズチ:お兄ちゃん・・・帰ってきた時よりも傷が増えてるよ・・・
スティレット:「魔心臓」・・・。人工的に作られた魔力の源である宝石状のコアを、
魔力の高い魔獣の心臓へ埋め込み、簡易的な魔心炉とさせ肉体に魔力を宿す技術です。
私達STシリーズに搭載されている魔心炉と違い、半永久的な機関でもなければ、
「魔力を持たない人間」に並ならぬ魔力負荷をかける爆弾のような心臓・・・。
・・・魔力を使用すれば使用するほど、力が弱まっていき機能を失っていく。
だから強化手術を施し、微量の魔力で身体能力を飛躍的に増加させる・・・。
アルバート:何故・・・「魔導斬一刀流」を継ぐミカヅチが、魔心臓で動いているのか・・・
ハーネル:・・・ってこたァよ・・・ミカヅチは、「魔獣に限りなく近い人間」って事かよ?
全員:・・・・・・。
N:全員が押し黙ってしまう。医師に言われた、「人間なのか」という言葉が全員の頭を巡る
検査に出されたミカヅチの肉片は、「急速的な細胞分裂が発生」と人外の域も唱えられているのだ
アメリア:一体何がどうなっているの・・・?もう何も分からない・・・
スティレット:新着メール一件・・・。レベッカ様がご到着されたようです。
私はレベッカ様に少々お話がございますので、少し席を外させて頂きます。
アメリア:あっ・・・
ハーネル:相変らずだなアイツは・・・。
アルバート:(・・・彼女も少しばかり、このことは本人に聞かされていたのか?)
アメリア:・・・ミズチちゃん、一度私の家にみんなで来たとき。ミカヅチさんに怒鳴られた時あったじゃない?
あの時に言いかけた事って・・・ミカヅチさんの身体の心配だったの・・・?
ミズチ:・・・そうです。お兄ちゃんの身体には・・・限界がありますから。
ハーネル:身体の限界・・・?
ミズチ:私も、よくわからないんです・・・。2年前にお兄ちゃんが一人で帰ってきて、
この身体を見て。一通りの説明をされても、未だに頭の整理が追いつかなくて・・・
ハーネル:確かにな・・・。自己再生能力っつっても、完全に傷が消えるワケじゃねぇ・・・。
再生にも、身体には相当な負担が掛かるって事じゃねぇのか?
ミズチ:私、最初お兄ちゃんだって分からなかったんです・・・。帰ってきた時。
知らないおじさんに「ミズチ、俺だ」って言われて怖かったんですけど、お母さんが気付いてくれて
アメリア:(確かに、この風貌で17歳と言われても誰も信用してくれないと思う・・・)
ミズチ:修行に出る前は、本当に活発的な少年だったんですよ。
毎日剣を振って。お父さんに怒鳴られながらも、来る日も来る日も振り続けて・・・
N:ミズチは鞄から小さな手帳を取り出すと、開いて2つの紙を手に取った。
1つは、ミカヅチが修行に出る前。道場の中、コンゴウの下で剣術の修行に励んでいる写真。
ジパングでは何処にでもいるような黒い髪の少年が、汗水に塗れ剣を振っている。
2枚目は新しい色をした写真。道場の中、ごつい体格をした強面の青年が袴姿で剣を振る写真。
これも当然ミカヅチである。6歳から15歳までの間で一体彼に何があったのか。
他の3人は不思議そうな顔で、二枚の写真を見比べていた。
アルバート:・・・ミカヅチが帰ってきてからの事、教えてくれるか?
ミズチ:・・・。
アメリア:ミズチちゃん、辛いかもしれないけど・・・ほんの少しでいいの・・・。
ミズチ:・・・わかりました。
???:その役目、俺が承った。
その場の全員:ッ!!?
N:突如投げられた声。全員が声の聞こえた方向へと振り返る。
閉じられていたハズだった病室の扉に、腕を組んで背をもたれている人間がそこにいた。
かき上げられた灰色の髪に、鋭い眼孔。袴姿で長いサムライソードを提げた、界隈にいるはずのない、もう一人の武人。
アメリア:とある国に、一人の少年が居ました。
少年はたった一人の妹を護ると誓い、辛く厳しい修行へと足を運びます。
ですが、その道中・・・彼はいつの間にか肉体そのものを修羅にされていたのです。
次回「浅井御雷(あざいみかづち)」。今、暗く濃密な大気の底のような、過去のベールが剥がされる。
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