登場人物
♂浅井金剛 31歳→37歳 ジパングでの「コンゴウ・アザイ」、魔導斬一刀流創始者にして名の馳せた武人。
己に厳しく他人に厳しい面は相変らずだが、豪胆に生きミカヅチを育て上げる
♂浅井御雷 6歳→12歳 ジパングでの「ミカヅチ・アザイ」、武人を夢見て日々鍛錬に励むコンゴウの息子。
コンゴウが厳しいからか歳の割には落ち着いた性格だが、まだまだ子供
♀浅井瑞椎 5歳→11歳 ジパングでの「ミズチ・アザイ」、ミカヅチにいつもくっついて歩いている内気な妹。
♀ウォレム・浅井 20代? コンゴウの妻であり、ミカヅチとミズチの母親。名前の通り西洋人
♂エリダンヌ国王 30歳 アトランティス・エリダンヌ王国10世目の国王。コンゴウとは20年近く前からの友人関係
♂アルバート・ブーン 27歳 ヴァルハラで教員生活5年目の高等部教師。まだそこまで老けてない
♂魔獣研究施設職員 20〜30代 王国に太古から住む魔獣の生態を研究している施設の職員
※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※
役表(♂5:♀2:N)
♂金剛(コンゴウ):
♂御雷(ミカヅチ):
♂アルバート:
♂エリダンヌ国王:
♂施設職員/魔獣:
♀瑞椎(ミズチ):
♀ウォレム:
♂♀ナレーション:
N:「修羅」。それは古(いにしえ)から伝わる教(きょう)の一つ。
またの名を「戦闘神(せんとうしん)」、「武神(ぶしん)」。業(ごう)を極める者が辿り着く境地。
「魔法」といったおとぎ話の通用しない国では、己が腕そのものが武器であり、ジパングもまた同じ、
刀や槍が交わる事は決して珍しくなく、武人と武人がぶつかり合う光景も、また「修羅」である。
ミカヅチ:破(は)ッ!せいっ!せいやッ!・・・はぁあッ!!
コンゴウ:踏み込みが甘い!己の間合いをちゃんと確保しろ!
垂直に振り下ろして一点だけ打て、十本追加ッ!
ミカヅチ:お、押忍!
N:自宅の道場で、まだ幼い少年ミカヅチは父コンゴウに怒鳴られながらも必死に木刀を打ち込む。
何十分も、何時間も、木刀一本がとことん窪みヒビが入るまで打ち続けていた。
コンゴウは鋭い眼で目の前で打たれる木刀の切っ先と、ミカヅチの動きを見ていた
コンゴウ:(筋は悪くない、流石は俺の息子といったところか・・・。だが・・・)
疲労と焦りの顔を見せるな。相手に悟られた瞬間に切り込まれるぞ・・・!
ミカヅチ:はっ!せいッ!破ァッ!!
コンゴウ:よし良いぞ!呼吸を一定に保って、打て打て打て!
N:打ち込まれる甲高い音は、道場を抜け外にも響くほど鋭さを増していく
何時間も響く音が気になったのか、10分ほど前から妹のミズチが廊下から見ていた
ウォレム:ミズチ、ここにいたの?
ミズチ:・・・おかーさん?
ウォレム:こんな所に立ってないで、中に入って観たらいいのに
ミズチ:でも、おにーちゃんもおとーさんも、こわい顔してる・・・
ウォレム:練習だから仕方ないのよ?ほら、おいで
ミカヅチ:はっ!はっ!はっ!
コンゴウ:・・・ん?どうした、二人とも
ウォレム:ミズチがどこか行ったと思ったら、道場を覗いてたの。
あなた、ミカヅチに無茶させてなーい?汗すごいけど
ミカヅチ:大丈夫・・・はッ!
ミズチ:おにーちゃん・・・?
ミカヅチ:はっ!・・・ミズチの顔見たら・・・疲れが吹き飛んだッ!
コンゴウ:・・・と、当の本人は申しているが
ウォレム:男の子は元気ね・・・。じゃミズチ、お風呂掃除と晩御飯の支度しちゃいましょ?
ミズチ:うん。おにーちゃん、がんばってね
ミカヅチ:あぁ!
コンゴウ:よし次ッ!逆袈裟(さかげさ)からの唐竹(からたけ)、半歩一歩!
N:父親の怒号に屈することなく、少年は日々鍛錬を積み重ねていた。
その日の晩。ミカヅチとミズチが寝静まった頃、縁側でコンゴウが月を見ていた
ウォレム:来週・・・?
コンゴウ:あぁ、来週末には学校の入学手続きを済ませなければならんだろう?
そうなってしまうと後処理が面倒だからな、その前に発ってしまおうと思っている
ウォレム:そう。・・・ミカヅチは、どう言っているの?
コンゴウ:「妹を護る力が手に入るまで、学び舎に足は向けない」。そう言っていた・・・
ウォレム:あの子らしいな・・・。立派な武人になれるわ、その気持ちがあるなら
コンゴウ:・・・・・。
ウォレム:どうかした?
コンゴウ:強い武人になるのか、この流派を極めるのか・・・。
どちらを選ぶかによって、あいつの先の路(みち)が決まる・・・か。
「魔導斬一刀流」は人を護る力に在らず、外道の術(すべ)だ・・・
決して末路が守護者となる訳ではない。
ウォレム:・・・・・。
コンゴウ:正直な話、俺はミカヅチを自分の理想に近づかせる事はできても、
あいつの理想とはかなりかけ離れるのではないかと思っている。
ウォレム:なーんだ、そういう事か
コンゴウ:・・・む?
ウォレム:心配ないと思うわよ、今ミカヅチの糧はミズチを護る事でしょ?
魔導斬を極める為に、強い武人になるっていうステップがあるんじゃない?
それに、根本的な意味もあるけれど、力の使い方なんて人それぞれよ。
・・・ミカヅチの信念が捻じ曲がらない限り、外道には決してならないわ
コンゴウ:・・・そうか。全てはあいつ次第か・・・。
ウォレム:その為にも、貴方が教えるだけじゃなく、導いてあげないと、ね?
N:月明かりに照らされたウォレムの優しい微笑みに背を向け、コンゴウは襖を静かに開く。
その先には、ミカヅチとミズチが寄り添って、静かな寝息を立てていた
翌週の中日(なかび)。港の改札口には浅井一家の姿があった。
剣道の防具入れのような大きいバッグを提げ、ミカヅチは故郷の景色を少し眺めている
ウォレム:向こうへの連絡はもう済んでいるの?
コンゴウ:あぁ、軽いアテがあってな、しばらくはそこへ住める事になっている。
別の荷物には全部あて先を書き込んでいるから、そのまま送ってしまって構わん
ウォレム:えぇ、わかったわ。・・・ミカヅチ
ミカヅチ:・・・え?どうしたの母さん
ウォレム:ミズチが今にも泣きそうよ?
ミズチ:・・・・・。
N:ミカヅチが慌ててミズチへ見やると、ミズチの目尻には涙がいっぱい溜まっていた。
ミカヅチ:あぁっごごめんミズチ!育った場所の景色を目に焼き付けときたくて・・・
ミズチ:おにーちゃん・・・けがしないでね?
ミカヅチ:う・・・なかなか難しいお願いだなぁ・・・。
まぁ、ケガしないように強くはなってくるよ、だから大丈夫さ。
ミズチ:やくそくだよ・・・?
ミカヅチ:あぁ、約束だ。ほら
ミズチ:うん
アザイ兄妹:ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆーびきった!
N:ミカヅチとコンゴウを乗せた船が港を離れていく。
みるみるうちに遠くなっていく母と妹の姿をいつまでも眺めていたミカヅチだが、
やがて完全に見えなくなり、立ち尽くしたままになっていた。
コンゴウ:・・・・・ミカヅチ
ミカヅチ:・・・・・。
コンゴウ:・・・涙は、今のうちに流し尽くしておけ
ミカヅチ:・・・うん
コンゴウ:(ウォレム・・・。外道に生まれた俺を許せ・・・)
N:船は長い間海を渡り続けた。例え旅路でも二人は鍛錬を怠ることなく続けている。
霧の中を進んでいた船が霧から姿を現すと、遠くに小さな島が目視できるようになった。
数時間で港へと辿り着くと、二人を待っていたのは、コンゴウと同じくらいの年齢で、口に髭をたくわえた人物
エリダンヌ国王:お二方様、ようこそ!我がアトランティス・エリダンヌ王国へ!
いや、貴方の場合は「おかえりなさいませ」と言うべきでしょうかな?コンゴウ・アザイ殿
コンゴウ:あぁ、また暫く世話になる・・・。こいつが俺の倅(せがれ)、ミカヅチだ。
ミカヅチ、この人はこの国で一番偉い人で、俺達が厄介になる人だ。ちゃんと挨拶をしろ
ミカヅチ:あ、浅井・・・じゃなかった・・・。ミカヅチ・アザイ、6歳です!よろしくお願いします!
エリダンヌ国王:あぁ、よろしく。おぉ・・・6歳といえば、私の娘と同い年か・・・。
鍛錬の合間を縫って遊んでやってくれると非常に助かるなァ
ミカヅチ:あ、はぁ・・・でも俺、練習が先なので・・・
コンゴウ:構わん。お前は少し、家族以外の女にも慣れておけ
ミカヅチ:わかった・・・。国王様、後でご挨拶させてください
エリダンヌ国王:あぁ良いとも。ささ、お二人とも、車を用意してますので、住居へご案内します。
エリダンヌ国王:おぉ、それではコンゴウ殿は学園の非常勤講師に?
コンゴウ:前は独りだったが、今回はミカヅチの鍛錬が優先だからな。
タダで居候させてもらう訳にはいかんし、まぁそれくらいしかやれる事もないしな
エリダンヌ国王:いやぁ助かりますよ。・・・そうだ、コンゴウ殿がジパングへ戻ってから、
新しい教師が入りましてね。肉弾戦が中々に強い男です、後でご紹介しましょう
コンゴウ:それは楽しみだ。コイツの格技術を見てもらうとしよう
ミカヅチ:格技術とか何年後の話してんだよ父さん!
エリダンヌ国王:はっはっはっはっは!
N:ミカヅチが初めてアトランティスの大地を踏んでから3年。場所はジパング。
アザイ家の下へ一通の手紙が届いた。ミカヅチは到着早々送った手紙以降、初めて実家に手紙を送ったのだ
ウォレム:ほらミズチ、読んでみて?
ミズチ:うん。・・・「お母さん、ミズチへ。けっこう間が空いちゃってゴメン・・・。
いろいろ大変で、ようやく手紙が送れるようになるまで落ち着いたんだ。」
ミカヅチ:「最初はアトランティスという国がジパングと違い過ぎて戸惑ったりしたけど、
さすがに3年もしたら慣れちゃったよ。今ではほとんどの所も一人で行けるくらいさ。
国王様とかも優しくしてもらってるけど、やっぱ学校に行ってないとなるとどうもむず痒い。
修行のほうは、ようやく体術を習い始めてるところさ。こっちの学校にいる先生がめっちゃ強いんだ!
今までずっと剣術一本だったから動きも全然想像つかなくて、やり始めの頃に一度骨折しちゃった・・・。
まぁ今では治ったしだいぶ掴めるようになってきた!やっぱ男は肉弾戦だよな!」
アルバート:はッ!ふんっ!ふんふンッ!!!
ミカヅチ:くっ・・・!はっ!せいあッ!!
アルバート:打点が高いぞミカヅチ君!拳の力加減はインパクトの瞬間に・・・こうッ!!
ミカヅチ:くあぁッ!?く・・・もう一本お願いします!
アルバート:よし来いっ!
ミカヅチ:「そういえばこの前、初めて魔獣ってのを見たんだ。なんか、ジパングにいた動物とは違って硬い!
あんま美味しくなさそうだなぁって思ったら、やっぱ人は食べられないらしいよ。」
ミズチ:・・・そうなの?
ウォレム:うーん・・・なんていうか、口に入れたら具合が悪くなる・・・かな?
ミズチ:ふーん・・・?
ウォレム:(魔獣といったら・・・あの子ももう10歳になるのよね・・・)
ミカヅチ:どっ・・・っせぇあああッ!!!
アルバート:うぉおっ!?よしいいぞ!もう一丁!
ミカヅチ:「俺、どんどん強くなれてるって実感があるから、今がすごい充実してるよ。
母さんやミズチに会えないのはそりゃ寂しいさ・・・。でも、帰ってきたときに
二人にはアッと驚いてもらうんだ!それじゃ、また落ち着いたら手紙書くよ!」
ウォレム:あっと驚くか・・・。ま、それはミズチも同じよね?
ミズチ:うん。ミズチも・・・なぎなた頑張る
ウォレム:それじゃ、稽古に行きましょ
エリダンヌ国王:なんと!?もう彼に魔獣狩りをさせるのですか!?
コンゴウ:(※茶をすすり)・・・いや、むしろ昨日からさせている。
何も驚く事じゃないだろう。お前のところの娘も既に施設訓練させているじゃないか。
エリダンヌ国王:あれは施設用に開発した訓練用魔獣ですよ・・・。
実在の野生魔獣とは魔力値も獰猛さも全く違う。
私は貴方が「我が子を谷底に突き落とす獅子」に見えてきましたよ
コンゴウ:人聞きが悪いな。何も最初からあいつ一人でやらせているワケではないぞ?
エリダンヌ国王:はぁ・・・で、どこのエリアで実践訓練をさせているのですか?
コンゴウ:王国北西にある樹海の遺跡共々だ
エリダンヌ国王:ぶっふ!?よりによって一番危ないエリアじゃないですか!?
コンゴウ:そうか?確かにバカみたいに魔獣の数は多いが・・・
エリダンヌ国王:内陸側はともかく、海沿いの遺跡はかなり危険ですよ。
前に研究チームが魔導師と共に探索に入りましたが、全員病院送りです
コンゴウ:そうか・・・。総仕上げに連れて行くのも良さそうだな
エリダンヌ国王:勘弁してくださいよ・・・
コンゴウ:我々ジパングの人間は魔導師じゃあないんだ。肉弾戦は百人組み手の要領こそ至高。
人間じゃない動物の塒ひとつ潰せんようでは、ジパングの戦には生き残れんよ
エリダンヌ国王:うーむ・・・
N:お茶をすすりながらコンゴウは、下で体術訓練に励む二人を眺める。
ミカヅチの成長速度は凄まじく、最初は教える側だったアルバートも日に日に表情に余裕がなくなっていた
アルバート:いやぁーさすが若さだ、非常に飲み込みが早い!
あとは錬度さえ上げていけば、肉体の成長と共に自然と破壊力も増すだろうな。
ミカヅチ:・・・それじゃ駄目です。身体の成長を待つ余裕なんてないですよ
アルバート:しかし、今の成長段階で威力を上げてしまえば、身体が壊れてしまうぞ?
ミカヅチ:そん時は、俺の身体って所詮そこまでしか行けなかったんだろうなって思いますね
アルバート:・・・やれやれ、怖いことを言うもんだ
ミカヅチ:次、剣術も混ぜての訓練お願いします。
アルバート:あぁ。お手柔らかに頼むよ。
(・・・やはり剣を持つと、眼孔が別人のようだ・・・。)
ミカヅチ:ふゥうううううゥゥゥッ・・・!
アルバート:行くぞッ!
ミカヅチ:チェェェストオォォォォォッ!!!
施設職員:えっ!?こ、これを実剣で斬ったんですか!?
N:ミカヅチが魔獣狩りを始めて暫く。コンゴウはあるものを持って魔獣の研究施設に来ていた。
コンゴウが職員に見せたのは、何時だかミカヅチが真っ二つに斬った、硬い魔獣の皮である。
魔獣の皮膚とは、種類によっては魔力を付与しない状態でも乾いた音が響くほど強度の強いものも存在する。
施設職員:この魔獣の皮膚・・・普通はアーマーピアッシング加工の銃弾か
密度の高い魔力付与での尖突(つき)でないと抜けないモノのはずですよ・・・。
いやぁ・・・改めてサムライソードの恐ろしさを実感しますね・・・
コンゴウ:いや、ただ闇雲に当てたとしてもコイツは斬れやしない。
魔力源の流れを完全に無視しても綺麗に斬った時は、流石に俺も驚いたさ
施設職員:・・・化ける武器になるのは、操る人間次第って事ですか・・・。
コンゴウ:いくら錬度の高い鋼(はがね)を使おうと、ヘタクソが振ればすぐにボロボロさ
施設職員:息子さん、いい感じに仕上がっているんじゃないですか?
コンゴウ:なァにまだまだ。極限を糧にせねば発揮できん状態じゃ、自分に傷が増えるだけだ
施設職員:厳しいですねぇ。10歳で皮膚強度B+の魔獣を倒すなんて
こっちの世界では普通いませんよ・・・。
コンゴウ:まぁ普通にする気も更々無いしな
施設職員:はっはっは!思えばそうでしたね。ジパング古来の「武人」・・・。
肉弾戦と剣術はどこの魔法国よりも次元が全く違いますからね。
そう考えると、元々普通でない分無駄に納得できてしまう気がしますよ
コンゴウ:話が早くて何よりだ
N:それから更に2年の月日が流れ、ミカヅチは12歳。心身共に成長し、確実な武人候補となっていた。
今から向かう場所は、王国北西で一番古くから存在していたと伝えられる遺跡である。
アルバート:・・・国王様、ミカヅチ君は本当に大丈夫なんでしょうかね?
いくら付近の遺跡の魔獣達をこの2年で、たった一人で潰したとはいえ、流石にあの場所は・・・
エリダンヌ国王:うむ・・・。しかし、コンゴウ殿の考える事が全く読めぬ以上、
我々には止める権利がない・・・。アルバート先生、不安なのは私も同じなのだよ
アルバート:一番古代からあったとされるあの遺跡。なんでも、伝説もあるとかなんとか?
エリダンヌ国王:あぁ。そしてその場所は、コンゴウ殿にとってある意味「始まりの地」なのだよ
アルバート:始まりの地・・・?ってまさか!?十数年前に噂で広まった、あの遺跡の最深部に
現代社会の人間で辿り着いた男というのは・・・!?
エリダンヌ国王:・・・コンゴウ殿は、それをアザイ家の武人のしきたりにするつもりなのか・・・
コンゴウ:(15年・・・帰ってきたぞ)
N:遺跡の入り口へと辿り着いたコンゴウとミカヅチ。
禍々しく木の蔓や苔に覆われた入り口。魔力の気がビリビリとミカヅチの頬を撫でるが、
ミカヅチは目を逸らすことなく、睨むようにその先を見据える。
コンゴウ:総仕上げだミカヅチ。お前ひとりの力で最深部まで辿り着けた時。
「浅井御雷」に魔導斬一刀流、「迅雷」の称号を与える
ミカヅチ:「迅雷」・・・。
コンゴウ:この遺跡の魔獣は、今まで斬り潰した魔獣と同じとは考えるな。
出る魔獣全てを人間と思い、その刀が耐えられる限り斬って行け
ミカヅチ:・・・わかった。
コンゴウ:安心しろ、お前は強い。この2年で体術も修得し、死角というものがまるで無い人間になった。
あとは有象無象の躊躇なく、どれだけ無心でその得物を振るえるか・・・だ
ミカヅチ:大丈夫さ、父さん・・・。俺はミズチを護る為なら、心を鬼にする
コンゴウ:・・・・・。では、行け。俺は5分後に入る
コンゴウ:・・・「ミズチを護る為」・・・か。
ミカヅチ、お前は知らないだろうが・・・この剣術では人を護る事はできん。
戦国の世で一度滅亡し、地獄から蘇ったこの浅井の血が辿り着けるのは、外道という道だけだ・・・
ミカヅチ:せェえええェェェあッ!!!
ウォレム:(それに、根本的な意味もあるけれど、力の使い方なんて人それぞれよ。
・・・ミカヅチの信念が捻じ曲がらない限り、外道には決してならないわ)
コンゴウ:・・・確かにな。お前は俺が命を賭してでも手に入れたいと思った末路だ。
それなのに自分の子供を自分と同じようにしようなんざ、矛盾にも程があるだろう・・・
ミカヅチ:突貫兵法・・・「振跳一文字(しんちょういちもんじ)」ッ!!!
コンゴウ:だが、お前は俺の血を引く以上・・・この道を外すことはできんのだ
ミカヅチ:ちぇぇりゃりゃりゃぁッ!!!
コンゴウ:・・・外道に生まれた俺を許せ。
N:ミカヅチが遺跡に入ってから5分が経過し、コンゴウはその遺跡へと足を踏み入れる。
歩み進めていくと、道端や壁には無残にも斬り散らされた魔獣の残骸があるだけだった。
コンゴウが想像していた以上にミカヅチの進行が速いらしく。歩行の速度を上げていった
ミカヅチ:チェェェストォォォォォッ!!!
N:ミカヅチの声が聞こえたのは、コンゴウは遺跡を歩み進んで約15分が経った頃。
コンゴウがそのエリアに入った時には、ミカヅチは1体の大型魔獣と対峙していた。
それは15年前、コンゴウも剣を交えた二足歩行の魔獣。風貌はまさに鬼(オーガ)とでも言うべきか
ミカヅチ:ふぅーっ・・・ふぅーっ・・・
コンゴウ:(流石のミカヅチも、消耗しているな・・・。どうやら道中いくらか喰らったようだ)
ミカヅチ:っ・・・ってえェェェェェあぁ!!
魔獣:グォォォオォッ!
ミカヅチ:ちっ・・・速い・・・なッ!
魔獣:ッシャアッ!
ミカヅチ:「振跳」ッ!・・・はぁッ!
コンゴウ:「振跳」の二段構成か・・・!三角跳びの要領で魔獣の飛翔に追いつくとはな・・・
ミカヅチ:抜刀兵法「斬空・弐式(ざんくう・にしき)」!
魔獣:ギェエェェェアッ!カァッ!!
ミカヅチ:ぐぅうっ!・・・くぁああっ!?
N:空中で魔獣に二太刀浴びせたが、身体の自由が効かない状態でそのまま地に突き落とされてしまう。
痛みに耐えながら立ち上がるも、魔獣はトドメと言わんばかりに垂直落下を仕掛けていた
コンゴウ:まずい・・・!ミカヅチッ!!
ミカヅチ:うぉおおおおおぁッ!!!
コンゴウ:何ッ!?
魔獣:ギェエアアアアアァッ!!?ア・・・ァ・・・
コンゴウ:(跳ね跳びの要領で身体を振り起こしながら・・・逆手の刃を心臓へ突き入れた・・・)
ミカヅチ:っく・・・っはぁッ・・・はぁ・・・はぁ・・・
コンゴウ:(恐るべし浅井御雷・・・!護る力に対する執着と、圧倒的な戦闘センス・・・
咄嗟の判断が人間の思考を遥かに凌駕している・・・!この遺跡で化けるぞ・・・!)
ミカヅチ:はぁ・・・はぁ・・・よし、次・・・
魔獣:ガァッ!!!
ミカヅチ:だッ・・・!?
コンゴウ:なっ・・・!?
N:ふらふらなミカヅチの背後から、一瞬で魔獣の腕が伸びる。
完全に不意を突かれたミカヅチの左胸には、その魔獣の鋭い爪が伸びていた
コンゴウ:ミっ・・・ミカヅチィイイイイイッ!!!
ミカヅチ:かっ・・・お・・・ごッ!?
N:大量の血液を吐き散らしたミカヅチは、魔獣の頭に刃を突き入れ、そのまま血の海へと身を沈めた
コンゴウが駆け寄った時には、既に魔獣はトドメを刺されていた
コンゴウ:おい・・・おい!ミカヅチ!?おい!しっかりしろ!ミカヅチッ!!
ミカヅチ:ぁ・・・と・・・さん・・・
コンゴウ:喋らなくていい!すぐに出るぞ!王国の救急救命ならまだ間に合う!
ミカヅチ:ごめ・・・ん・・・。俺・・・まだ、よわ・・・かっ・・・
コンゴウ:そんな訳ないだろう!お前は俺の息子だ・・・!武人になれるんだ!
ミカヅチ:・・・・は・・・は・・・
コンゴウ:ミカヅチッ!!
ミカヅチ:み・・・・・ず・・ち・・・
コンゴウ:ッ!?・・・・・ミカヅチ・・・?
N:力なく垂れ下がったミカヅチの顔には、流し尽くした筈の涙が一筋流れていた
ミカヅチを抱いたコンゴウは、歯を食いしばり身を震わせながら、立ち上がった
コンゴウ:・・・俺は。・・・絶対に・・・諦めんぞ・・・
施設職員:馬鹿を言わないでください!れっきとした人間でしょう!?
コンゴウ:分かっている!だが・・・こいつの才能を、技術を!
・・・俺は無駄にはしたくない・・・!こいつは、まだまだこれからなんだ!
施設職員:アザイさん・・・。どうしても、やると言うんですか?
コンゴウ:・・・あぁ
施設職員:言っては何ですが、とても人道的とは思えません。
貴方は自分で自分を「外道」と評していますが、私も今理由が分かった気がします
コンゴウ:そうだ・・・。己の望みを叶えるのに、手段など選んでいられん
施設職員:貴方を恨みますよ・・・息子さんは
コンゴウ:あぁ、だから俺は行く。家族とは、今この場で別れだ・・・
施設職員:ジパングには、手紙くらい送ってあげてくださいよ。
この子は、貴方と違って向こうへ帰るんですから・・・
コンゴウ:・・・・・ミカヅチを、頼む。
アルバート:生き血で染まる過去を辿っても、結果生き血で染まる未来しか見えない。
ならばせめて自分を楽にしてやるのが、外道への最高の手向けではないのか・・・
死んでも死にきれず、護るものと望みは曖昧へと崩れていく。
次回「剣(つるぎ)に賭ける宿命」。・・・それが、浅井御雷という漢(おとこ)。
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