登場人物
♂コンゴウ・アザイ 42歳 ミカヅチ、ミズチの父親で、「魔導斬一刀流」の創始者
己にも他人にも厳しく、ジパングには名の通った武人。
♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、共にヴァルハラへ転校してくる。
重度のブラコン。ミカヅチを慕ってる。最近レベッカに狙われてます
♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチと同じクラス。お嬢様という特別視を嫌うエリダンヌ国の姫君
彼女自身もお嬢様には見合わぬ明るい性格をしているが魔法剣士の腕は一流
♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトでミリタリーマニア、不真面目代表
一見チャラい男だが、ミカヅチ同様なにかとアツいものを秘めている義理人情に厚い野郎
♀レベッカ・フレイズ 16歳 アメリアを慕う後輩。ミズチとスティレットのクラスメイト
真面目な性格だが、ミズチの愛で方が半端なかったりする百合っ娘
♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、エリダンヌ家で製造された戦闘型アンドロイド。
感情を持ってないと言う割には、若干ドジっ娘気質があったりなかったり
♂アルバート・ブーン 38歳 ミカヅチのクラス担任。就任15年目のベテラン教師
スーツをラフに着こなし、そこから見える逞しい肉体と煙草がトレードマーク。
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役表(♂3:♀4:N)
♂コンゴウ:
♂ハーネル:
♂アルバート:
♀アメリア:
♀ミズチ:
♀レベッカ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:
レベッカ:・・・出たよ、スティレット
スティレット:・・・どうでしたか?
N:ミカヅチの病室へ行く前にスティレットに呼び出されていたレベッカは、
院内の調査室に連れられていた。スティレットから渡されたモノを調べていた
彼女は、結果を待つスティレットに、重い口を開いた
レベッカ:うん・・・。あんたの予想通り、間違い無いわ
スティレット:そうでしたか
レベッカ:ねぇ・・・今更聞きなおすのも可笑しな話なんだけどさ・・・。
あんたが言った先輩の話は・・・本当なの?
スティレット:我々が聞く分の中では、事実でしょう。
そうでなければ、このようなモノは存在していない筈ですから
レベッカ:そう、だよね・・・。うん。・・・あたしも色々聞きたいわ
スティレット:では、行きましょう
ミズチ:第十九話「剣(つるぎ)に賭ける宿命」
N:ミカヅチの病室。コンゴウの口から出された言葉の数々は、少年時代のミカヅチの過去だった。
魔獣に殺され、当時試験的に開発されていた「魔心臓」を移植させ、肉体に強化手術を施したのが今の彼。
アメリア:それじゃあ・・・本物のミカヅチさんは既に死んでいた・・・?
コンゴウ:「本物」となるとどう答えるか悩むが、この肉体はれっきとしたミカヅチ本人だ
アメリア:ですが!・・・ですが・・・
アルバート:・・・確かに、ミカヅチの遺体をそのまま使用し復活させた点では、本物ですね
ハーネル:ただ、人間として蘇ったワケじゃねぇって事だよな・・・
コンゴウ:こいつの潜在能力を引き出すとなれば、クローンでは話にならなかった。
本人そのものの脳や臓器、神経機能が必要だったからな
アメリア:・・・どうしてそこまでしてミカヅチさんを蘇らせたかったんですか・・・?
コンゴウ:・・・・・。
アメリア:ミズチちゃんを護るための力を欲して、死に物狂いで修行をして・・・。
確かに、無茶な鍛錬の末に死んでしまったら・・・元も子もないですけど・・・
ミズチ:・・・アメリアさん・・・。
アメリア:肉体を外道の術(すべ)で・・・人間から離れた存在にしてまでっ・・・!
コンゴウ:人間だッ!!!
全員:・・・・・ッ!
コンゴウ:ミカヅチは人間だ・・・!ただ普通の人間より筋力が、骨の強度が、反応速度があるだけの!
・・・確かにコイツは四肢が千切られようが、心臓を45口径で撃ち抜かれようが鉄球で殴られようが、
首と胴を離されぬ限り・・・頭蓋を粉々に砕かれぬ限り「死ぬ前」に全て再生治癒してしまう・・・。
ミズチ:お父さん・・・
コンゴウ:だが「それだけ」だ!魔獣でもSTシリーズでもない!れっきとした一人の人間だ!
レベッカ:だったら!!
ハーネル:・・・レベッカ
レベッカ:アザイ先生、だったら・・・「コレ」は何なんですか?
N:コンゴウの叫びを断ち切るようにレベッカとスティレットが病室に割って入る。
レベッカの手には全員の視線が集中していた。その手にあるものは、一つの小さな試験管と液体
アルバート:薬品・・・?
コンゴウ:お前・・・何処でそれを?
スティレット:ミカヅチ様が倒れていた場所です。この未開封と、空の試験管が一つずつ落ちていました
ミズチ:(・・・いつもお兄ちゃんの上着に入っていた試験管・・・)
レベッカ:指紋を採ると、先輩の指紋しかありませんでした。・・・って事は先輩の持ち物ですよね?
・・・なんで「れっきとした人間」がこんなもの持っているんですか!?
ハーネル:おいレベッカ、どういうことだ?
アメリア:その中身は・・・一体なんなの?
レベッカ:・・・・・ある種の毒薬ですよ。免許持って扱える劇物なんかよりも、遥かに・・・
ミズチ:毒薬・・・!?
コンゴウ:・・・・・。
レベッカ:すみません皆さん。先ほどまで、コレと先輩の身体組織・・・全部調べさせて頂きました
アルバート:(この短時間でか・・・。流石は魔法化学科エリート、生徒の中で最も博士号に近い存在・・・)
コンゴウ:・・・一つ空のが見つかったということは、こやつめ・・・使ったのか
スティレット:コンゴウ様がお答えにならないなら、私たちが説明いたしましょうか?
コンゴウ:俺を脅しているつもりか・・・?いいや、知られてしまったものは仕方が無い。
単刀直入に言うなれば、その薬品は・・・外傷を瞬時に回復させる「自己再生促進剤」。
アメリア:自己再生・・・促進剤?
コンゴウ:たしかにミカヅチの自己治癒再生の能力は、常人を遥かに越える回復速度だ
先程も言ったが、「刃物で刺される」や「筋肉に弾丸を撃ち込む」程度の傷なら数十秒・・・
行き過ぎて瀕死の重傷を負ったとしても、「死ぬ前に全て」完治してしまう
ハーネル:・・・改めて聞いても、信じられねぇ話だってのな・・・
レベッカ:(元々がそんな化物のような人体構造だったんだ・・・)
コンゴウ:・・・医師の話によれば、千切られた左腕の接続に手間取ったそうだな。「長さが違う」と。
そしてこいつの腹・・・内蔵が抉り散らされて皮一枚と背骨だけで繋がっていたのに
見る影もなく綺麗に修復されている・・・。流石にここまでの損壊は普通なら何日もかかる
スティレット:それを、この促進剤を使用した事によって爆発的に再生速度を上げた・・・と?
コンゴウ:そうだ
ハーネル:すげぇじゃねぇか!?なんで毒薬なんだよそれが?
要はどんな見た目のひでぇ怪我だろうとそいつ使えば一発なんだろ?
全員:・・・・・・・。
ハーネル:・・・・・あれっ?
ミズチ:ハーネルさん・・・
アルバート:お前は少し空気を読んだほうがいいぞ
コンゴウ:続けるぞ
ハーネル:・・・ハイ
コンゴウ:2年のフレイズといったか。ミカヅチ以外がコイツを使えばどうなるのか、お前は知っているか?
レベッカ:成分的に考えて、漠然と「そうなるのではないか」ってところまでは一応・・・
アメリア:ミカヅチさん・・・以外?
コンゴウ:この促進剤を使えるのは、ミカヅチ・・・あるいはそれ同等の身体組織を持つ者だけだ。
ただの人間が使えば、急激な細胞分裂に伴う体温の変化についていけず・・・木っ端微塵に爆発する
ハーネル:なっ・・・!
アメリア:身体が・・・爆発・・・
スティレット:・・・人体の細胞分裂には、本来ならば範囲や回数に限界があります。
怪我の治療によって起きる細胞分裂でも、少なからず「肉体の成長」「組織の更新」も混ざります。
ミカヅチ様の身体の場合、一般人で数日、数週間と要する事を数分、数時間・・・という速度で
行われている訳ですから、年齢よりも肉体の老化が早いのだと思われます。
コンゴウ:今のミカヅチの肉体は、おおよそ二十代後半・・・といったところか
スティレット:そしてこの促進剤は、そのミカヅチ様ですら数時間と要する事を一瞬で片付ける・・・
噛み砕いて言うとすれば、「薬品一本の使用で寿命が数年単位で失われる」ということ
N:コンゴウとスティレット以外が、言葉にならないような表情をしていた。
ミカヅチの肉体。外道の術を施し作り上げられた、戦うための強化手術。その内容。
だがハーネルは、あることが疑問で仕方なかったようだ。
ハーネル:・・・なぁ。さっき気づいたんだけどよ、なんで魔法文化のねぇジパングのミカヅチとミズチが
魔力持ちで、しっかりと魔法を使えているんだ?普通なら制御できずに暴発モンだぜ?
アメリア:た、たしかに・・・。ミカヅチさんは転校してすぐに使っていましたし、ミズチちゃんも
咄嗟の判断とはいえ、魔法技術の中では制御が特に難しい反射魔法(リフレクト)を使っていました。
ミズチ:あっ・・・
コンゴウ:過去の話題で出てきたかもしれんが・・・俺の妻、すなわちこいつ等の母親は、俺が
独りでこの王国を訪れた際に出会った、一部で名の馳せた魔法使いだ。
レベッカ:えっ・・・!じ、じゃあ先輩とミズチってハーフだったんですか!!?
コンゴウ:そうだ、だから魔力に対する耐性は生まれつき存在はしていた。
ただミカヅチには元々魔力はなく、魔心臓移植の際に副産物として付与されていたようだな。
アメリア:ミズチちゃんは最初から備わっていたんですね
コンゴウ:・・・母親の血が相当濃かったんじゃないのか?
N:コンゴウが皮肉交じりのような口調で言うと、ミズチは若干怯えるように俯いた
コンゴウ:・・・「どうしてそこまでしてミカヅチを蘇らせたかったか」・・・か。
そのとこについても少し話しておくか。流されるのもお前らとしては癪だろう
アメリア:は、はい
コンゴウ:一つ。最初にも言ったかもしれんが、ミカヅチには俺を越す天賦の才があった。
俺はその限界をこの目で、朽ちる前のこの目で確かめたかった。見てみたかったんだ。
・・・完全な能力を目覚めさせる前に殺されてしまったのを目の当たりにした時、
俺はどこか壊れてしまったようだな・・・。
アルバート:しかしなぜ、簡易的な魔心炉とはいえ魔獣の心臓なのですか?
スティレット:人間より遥か太古から魔力を保有している魔獣の心臓は、魔力負荷耐性も高いです。
・・・そもそも、人間の心臓を提供できるとこ自体無いですから、うってつけだったのでしょう
コンゴウ:その通りだ。大型魔獣の心臓は人間の成人心臓とほぼ同じサイズで耐性がかなり高い。
だが、流石に当時研究していた魔心臓はただの人間そのものには負荷が大きすぎた。
アルバート:それでの、人体強化手術ですか・・・
コンゴウ:数年は眠りにつくことは分かっていた。当時の記憶も断片的になってしまうこともな。
だからせめて、目覚めてすぐ動くことができるよう、戦えるようにしたかったんだ。
アメリア:・・・その強化手術って、もしかして本来は魔獣に施すモノだったんじゃないですか?
ハーネル:言われてみれば。俺たちが今まで始末した魔獣も、似たような人体構造だもんな
コンゴウ:違うな
ハーネル:えっ
コンゴウ:お前たちが戦ってきた二足歩行の魔獣。あれはミカヅチが蘇った後・・・
強いて言うなれば、俺があの組織と手を組んでから生まれた
ハーネル:んん??
コンゴウ:人間を人食い魔獣へと変えるウイルス。その中にある再生能力や人体強化の成分は、
俺が向こうに提供したものだ。言うなれば奴らは全部「ミカヅチの劣化コピー」といえよう。
そのため奴らには魔心臓が使われていない。
レベッカ:まぁ確かに。ウイルス感染ですからそれは人間の心臓のままですよね
コンゴウ:流石にアレに何の技術を施してああなったのかまではわからん。
・・・おおかた、あの魔獣共で王国全土を攻めて支配する。といった魂胆だろうがな
アルバート:うぅむ・・・。
N:またしても静寂が訪れる。聞きたいことがありすぎるせいで、逆に聞くことができない。
だが、無機質な瞳をした小さな少女だけが、ミズチの様子を伺いながら口を開いた
スティレット:・・・コンゴウ教諭は、ミカヅチ様がアトランティスに来た理由と、
今回、何者に襲われたのか。・・・ご存知なのですか?
コンゴウ:・・・む?
スティレット:ミカヅチ様が死して尚、護る剣(つるぎ)をミズチ様に捧げているのか。
外道を生み出した、最強の外道である貴方なら、何か知っているのではと
アメリア:(一番言いにくい事をサラっと言っちゃった・・・)
コンゴウ:・・・お前たちはミカヅチから、何も聞かされていないのだな?
アメリア:はい・・・。コンゴウ先生の捜索に協力してくれとしか・・・
コンゴウ:ふむ。まずはお前たちに面白いものを見せてやろう。
局地制圧型戦闘用アンドロイド「STシリーズ」。その3号機「レイヴンスティール」・・・
・・・ミカヅチを八分(はちぶ)殺しに仕立て上げたのはコイツだ。
ミズチ:・・・・・え?
アルバート:ん?これは中等部の制服か・・・。端から見れば本当に「少年」だな・・・
レベッカ:スティレットもそうだからアレなんだけど、何で外見は幼く見せるんでしょうね?
ハーネル:だよなァ。俺は前にも見たが、ただのイケ好かねぇガキにしか見えん
アメリア:・・・ミズチちゃん?
ミズチ:お兄・・・ちゃん・・・?
アメリア:・・・へっ?
ミズチ:どうして・・・。だって・・・コレ
ハーネル:昔の写真だよな?ちょ見せてみ
レベッカ:・・・うっわ超クリソツ。特に髪型と目ンところ・・・
アルバート:写真をまじまじと眺めるまでは気付かなかったが、確かに昔アトランティスにいた時の
ミカヅチがそのまま年を重ねたようだな・・・。・・・ん?待てよ?
ミズチ:お兄ちゃんが死んで、強化人間になって蘇って・・・身体の成長が早くて・・・。
でも、この人はそのままの時代を進んだ見た目で・・・?
レベッカ:無理やりに強化させた先輩をなぶり殺すレベルの戦闘力を持ってて・・・
コンゴウ:・・・気づいたか?
ハーネル:・・・信じたくはねぇけどよ
スティレット:「ST-03」のベースとなったDNAは、「12歳のミカヅチ・アザイ」ということですね
コンゴウ:・・・あぁ、そうだ。おそらく、ミカヅチが一度死なずに成長していたら・・・
間違いなく、あの容姿と戦闘力を持っていただろう。・・・身長は伸びるが。
あの組織め、身体強化技術を応用した時に研究所からミカヅチのデータを持ち出したか
アルバート:ミカヅチの「クローン以上の存在」か・・・。コイツは一番厄介だな
アメリア:サムライソードを綺麗に真っ二つにできる技術なんて持っていられたら、
もう私たちに為すすべもないですよ・・・
コンゴウ:あんなナマクラ刀は斬られて当然だ
ハーネル:・・・はぃ?
コンゴウ:むしろコイツはよく今までこんなもんで生きてこられたな。
ガキの頃から使い続けてた打刀(うちがたな)なんて、生き返ってすぐに
叩き折れたものだとばかり思っていたぞ
N:アメリアは思い出していた。以前ミカヅチ本人が自分の武器を「ナマクラ」と卑下していた事を。
コンゴウ:・・・女1人守るためだけに、自分の肉体を犠牲にしてきたのだ。
刀を砥いでは斬り、血を流しては自己再生の繰り返し・・・。
ミカヅチがコイツに何をしてやりたいのかは知らん。だが護る理由は俺にはわかる。
だが・・・それは今のお前たちが知るべき話ではない。・・・いずれ分かる事だ。
アメリア:ミカヅチさんが魔導斬を継承しきれずにそれを使い続けた理由も・・・ですか?
コンゴウ:そうだ
N:コンゴウはそのまま全員の前を素通っていくと、病室の扉を開ける
コンゴウ:ミカヅチに伝えておけ。「死地にて待つ。もうじき花は咲く」
アルバート:コンゴウさんッ!
ミズチ:お父さん・・・!
コンゴウ:・・・お前たちに一つだけ言っておく。
全てを見通していながら、あえて恍(とぼ)けて物語を他に進まさせるのが、浅井家の悪い癖だ
ミズチ:あ・・・
レベッカ:っづぁー怖かった!先輩の父親だってのがホントよくわかるわ・・・
N:コンゴウが去った後、その場にいた全員が深く重いため息を一斉についた。
突然の情報量が多すぎて整理が追いつかない表情の面々は、コンゴウが去り際に放った
ことだけがどうしても頭から離れなかった。
ハーネル:「花」って・・・多分メロウの事だよな?
アメリア:でしょうね・・・。
アルバート:ミカヅチは、メロウが何なのか最初から知っていたということか?
むしろメロウを追っていたのはコンゴウさんではなく彼であると・・・
ミズチ:それは、違うと思います・・・
レベッカ:どゆこと?
ミズチ:お兄ちゃんは、メロウ神の正体も・・・。花もどこにあるのかも全部知っています。
・・・確かに、お父さんの言うとおり、みんながまだ知る時じゃないのかと・・・。
ハーネル:んー・・・・・
アメリア:・・・ねぇ、ミズチちゃんはどれくらい知っているの?
ミズチ:えっ?
アメリア:まぁ、私たちももう新しく入ってきた情報量が多すぎてタスク限界に近いけど・・・。
例えば、ミズチちゃんのお母さんの事とか。
レベッカ:あぁ、なんかさっき「一部で名の馳せた魔法使い」って言ってましたよね!
一部でってのが気になるけど、あのアザイ先生と結ばれるくらいだから、
相当精神力とか強いヒトなんだろうなぁって思う。
アルバート:うーむ、しかし「ウォレム」なんて魔法使い・・・昔居たか・・・?
スティレット:簡単に当時のデータを洗ってみましたが、今のところは・・・
ミズチ:あの、お母さんは・・・もういないんです。
お兄ちゃんがジパングに戻って数ヶ月後に、家族旅行に行った帰りに事故で・・・
ハーネル:事故・・・
アメリア:それって、ミズチちゃんやミカヅチさんも巻き込まれたんじゃ・・・?
ミズチ:私、奇跡的に軽傷で済んだんです。お母さんが上になって・・・守ってくれて。
本当はお兄ちゃんが私たちを庇ってくれたんだけど、何本もの鉄は
お兄ちゃんを貫いて、お母さんで止まっていたそうです・・・。
レベッカ:(そりゃ先輩なら自力で助かるけど、ミズチのお母さんは無理よね・・・)
ミズチ:だからお父さんが離れた以上、私とお兄ちゃん・・・たった二人の家族なんです。
お兄ちゃんはきっと、もう家族を失いたくないから、この身で私を守ってくれてるんだと思います。
N:一行はミズチを残し救急病院を離れ、帰りの車の中。
いつも以上に重い空気が車内を満たしていたが。落ち着かない人間がひとり。
ハーネル:あーダメだ、どうしても気になる。別にミカヅチは俺らを騙してやってるワケじゃねぇよな?
アメリア:それは無いと思います。でなきゃ今頃こんな事になってないですよ・・・
ハーネル:だよなぁ・・・。っづぁー!ドタマがまたパンクしそうだ!
レベッカ:落ち着いてくださいよハーネル先輩。私たちも一杯一杯ですって
スティレット:アルバート教諭、見つけました。
アルバート:本当か?じゃあちゃんと実在していた人なのか・・・
スティレット:えぇ、正真正銘アトランティスの人物です・・・が。
アルバート:・・・が?
スティレット:ミズチさんのレアスキルと魔力量・・・。これは偶然の産物ではないのではないか、
と私は推測してしまいました。・・・この「ウォレム・アザイ」という人物
アルバート:どういうことだ?
スティレット:「ウォレム」のスペルは、「W、O、L、L、E、M」です。
アルバート:まぁ、そうだろうな。昔、映画俳優で「ウィレム・デフォー」という人物がいた。
ちょうど「O」の部分が「I」に変わっただけだからな。
スティレット:逆から読んでください
アルバート:逆から?んーと・・・M、E、L、L・・・!・・・ちょっと待て・・・!?
スティレット:「ウォレム」と名のつく人物がいるデータが浮上したのは、20年前です
N:アルバートは思わずくわえていたタバコを落としそうになっていた。
後ろの生徒たちが頭を抱えている中、ひとり険しい顔をし、ハンドルを握る力が少し強まる
アルバート:そうか・・・本当にミカヅチ達は全部知っていたんだな・・・
アメリア:己が死してなお、辿り着きたい領域がある。そこに限界の二文字は無い。
狂っている歯車を戻すより、そのまま歯を削り全く別の歯車に仕立て上げる。
次回「Der Fall Valhalla(デアフォール・ヴァルハラ)」。私達は踊らされず、そして躍るのだ
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