Mellow〜海面に咲く華〜 第十八話「拳聖」



登場人物

♂ミカヅチ・アザイ 17歳 本編の主人公。日本刀を用いる修羅の戦技「魔導斬一刀流」正統後継者で、屈強な肉体と精神力を持つ武人
                        過去に妹のミズチを護る為に外道へと転生し、二度目の地獄を渡る。実はジパングと王国民の間で生まれたハーフ

♀アメリア・L・エリダンヌ 17歳 ミカヅチのクラスメイトで、エリダンヌ王国の姫君。「光の騎士」の称号を持つ学園最強の騎士
                            魔法剣士の腕は一流だが本物の戦においての経験は少なかった。ハーネル達と戦を経験し心身共に成長していく

♂ハーネル・レッドホーク 17歳 ミカヅチのクラスメイトで不真面目チックなミリタリーマニア。上記二名とクラスAスリートップを飾っている
                            見た目のチャラさとは裏腹に頭の回転は速く、銃火器・火薬等の質量兵器の知識は凄まじいミカヅチの良き相棒的存在

♀スティレット ?歳 普段はアメリアのメイドをしている、ガンスリンガー製の戦闘型アンドロイド。
                    正式型番は「ST-02」。たまにやるドジと、ミカヅチのお陰で「ロボだから感情が無い説」に亀裂が入っている

♀ミズチ・アザイ 16歳 ミカヅチの妹、兄同様ジパングと王国民のハーフであり、レアスキル属性「水」の持ち主
                      ミカヅチの肉体の心配をするあまり突っ走りがちになるが、魔力運用はまだ半人前である。

♂アルバート・ブーン 38歳 ミカヅチのクラス担任で就任15年目のベテラン教師。レアスキル属性である「視えない魔法」の持ち主
                          コンゴウ・アザイとは古くからの仲で、ミカヅチの修行時代に格技術を教えたことがある。




※各キャラクターのもう少し練った詳細設定はコチラ※


役表(♂3:♀3:N)
♂ミカヅチ:
♂ハーネル:
♂アルバート:
♀アメリア:
♀ミズチ:
♀スティレット:
♂♀ナレーション:




ミカヅチ:・・・・・腹が減った

N:のそりと身体を起こし白い布団から出ると、ベッドの端に腰を据える。
   深い溜め息をつくと、失ったハズの左腕と腹をさすりながら苦笑いを浮かべ

ミカヅチ:・・・難儀なものだな。セーレに言われて初めて気付いた。
        今のままでは「俺の願い」は、単なる死に場所探しに過ぎんぞ・・・。

N:うなだれるように頭を落とし、もう一度溜め息をつく。
   しばらく沈黙を保っていたが、再び上体を起こせば、その目は刀のように鋭かった。

   荒々しく制服の上着と薬を掴むと、ふと立て掛けていた刀の存在に気付く。
   しかし既に真っ二つとなった刀身を思うと、手に持つ事なく病室を出た

ミカヅチ:ッ!?・・・・・ハーネル

ハーネル:ようやく起きたかこの野郎。何が起きてるか知らずに何処行く気だ?

ミカヅチ:・・・夢で死神様に言われたのだ。「皆の元へ向かえ」とな。
        だが何が起きているのか知らんのは事実だな。一体何があった?

ハーネル:テメェのせいだぞ

ミカヅチ:・・・・・何?ッごぁ!?

ハーネル:っせぁ!!

ミカヅチ:っぐッ!?

N:思いもよらぬ言葉に不意を突かれたミカヅチは、ハーネルの拳をモロに受けた。
   頬に一発、失ったハズのボディに一発。抜きが鋭い軍隊拳法が、静かに内臓に響く

ハーネル:一発目は、ミズチとアメリアを泣かせた分。
        二発目は、その身体の事を今の今まで黙っていた分。
        ・・・・・そして最後に一発。

N:銃口を向けるような鋭い殺気と共にハーネルが目いっぱい足を踏み込む

ハーネル:防衛装置を生で見れなかった恨みを晴らすッ!・・・・・・・ッぐぉ・・・

N:ハーネルの拳が放たれる寸前、ミカヅチの手刀が既に腹部に切り込まれていた。

ミカヅチ:・・・ん?最後のなんだそれ?

ハーネル:ゲホッ・・・ったく、岩みてーな身体しやがって・・・。
        だがどうやら意識はハッキリしてるみてぇだな?

ミカヅチ:いや、意識はハッキリしているがまず状況がまったくわからん

ハーネル:あーうるせぇうるせぇ。おらよ

ミカヅチ:ん?

ハーネル:めんどくせぇし時間がねぇから話は移動しながらだ。
        ブッ飛ばすから剥がされねーようにとっとと食ってしまえ!


N:朝の住宅街を一台のオートバイが風となって駆けていく。

ミカヅチ:ここにきてガンスリンガーの学園襲撃・・・か。
        いよいよ総力を挙げて王国の支配に来たってェのか?

ハーネル:わからん。だがヒューマンチェンジの他に大型の魔導兵器まで持ってきたと、
        あそこの学生、俺ら以外じゃマトモに兵器を相手にした事ねぇんだよ。

ミカヅチ:魔心炉を積んでるモンがきたら、流石に生半可な魔力攻撃は通用せん。
        先生がそれに気付いて、的確に指示をしてくれてれば良いのだが・・・

ハーネル:今ウダウダ考えたってしゃーねぇ!スロットル一周させんぞッ!

N:ハーネルが言葉通りスロットルを一周させんとばかりに捻ると、更に加速する。
   路(みち)を越え川を越え柵を越え。学園へ向かって走っていく

ハーネル:すまねェな・・・ミカヅチ

ミカヅチ:・・・ハーネル?

ハーネル:お前が最新型のSTシリーズに八つ裂きにされて、一度絶望の淵に落とされた。
        そしてお前が今まで「隠してきた」身体の秘密も知っちまって、頭が痛てぇ
        ミズチを護るため外道となって蘇ったのは、俺らにも正解かわからねぇよ。

ハーネル:でもよ、お前と出会って俺たちは確実に強くなった。アメリアも、レベッカも。
        でも俺達はお前とは違った、様々なモンが根本的に・・・。

ミカヅチ:・・・俺も好きでこうなったワケではないぞ?

ハーネル:わーってらァ。俺だって今じゃそんな身体になりてぇとも思わねぇよ。
        ・・・でもよ、「心」ってのは、死のうが心臓入れ替えようが、変わらねーんだな。
        ただ一つの事のみを純粋に願い続け遂行する。憧れるぜ、そういうヤツ。

ミカヅチ:・・・そうだな。親父の目の前で殺され、妹を護りたかった願いを引き継いで
        蘇るも、あの事故では優しかった母も護りきれなかった。
        その時から、俺の心の拠り所はいつもミズチだった。いつも隣にあいつが居た。

ミカヅチ:「母と同じ」あいつだからこそ出せる温かな笑顔を、俺は護りたかった・・・
        俺に力が・・・「人を殺める力」でなく「人を護る力」があれば!
        ・・・遅すぎたんだ。外道でなく修羅のままで居られたら、どんなに良かったか。

ハーネル:遅くはないんじゃねぇのか?俺たちゃまだガキだ、全然青臭ェんだよ。
        青臭ェからこそ必死に足掻いて、幸せっつーモンを掴み取るんだろうが

ミカヅチ:・・・・・若いな。死なずに生きていれば、俺もそう考えられたのか

ハーネル:んぁ・・・?

ミカヅチ:・・・それでも、ミズチは・・・

ハーネル:堅苦しいハナシは終いだぜミカヅチ!学園が見えたぞ!

N:ミカヅチがはっと顔を上げると、前方には学園の姿があった。
   黒煙が上がっている場所を目印にバイクは更に加速。ハーネルが機体に付けた
   端末を操作すると。現在の防衛装置の情報が次々と更新されていく


ハーネル:非常防衛装置発動・・・魔獣掃討完了するも魔導兵器1機が無傷、無傷ぅ!?
        防衛装置完全破壊、沈黙を確認・・・兵器は校庭に誘導し対処・・・
        いやぁコレはかなりマズいんじゃないかぁ・・・?

ミカヅチ:おい、この学園には結界装置があっただろ?アレどうしたんだ?

ハーネル:スティレットが撃ったロケットをそっくりそのまま投げ返されて沈黙

ミカヅチ:向こうさん、最早なんでもアリだな・・・
        ん・・・ならありゃなんだ?学園なんか光ってる気がするんだが

ハーネル:言われてみれば・・・ってあの魔力光の色、国王さんのじゃねぇか!?
        エリダンヌ国王の防衛結界と言やァ、絶対拒絶で物理でも魔法でも抜けねぇぞ!

ミカヅチ:・・・・・マズくね?それ、俺らどう学園に突っ込むよ?

ハーネル:ただでさえ序盤で俺ら尺取りすぎてるからなぁ、流石にこっから策考えて
        わちゃわちゃして学園に突入すんのに丸々一話使えないよな

N:そのとおり

ミカヅチ:今のは誰に対してのやりとりなのかは分からんが、どうするよ?
        更にはなんかあの結界はなんかフラついておるぞ?大丈夫なのか・・・?

ハーネル:しかもバカでけぇ魔力使ってるお陰で学園の上、天気なんか悪ィな。
        あっ、何か囲んだ!おいおい戦闘員と兵器閉じ込めるとか自殺行為じゃねぇか!

ミカヅチ:急ぐぞハーネル!幾ら先生やスティレットが居ようと魔導兵器は常に進化する!
        液体金属なぞ使われているヤツやSTシリーズが乗っていたとしたら最悪だ!

ハーネル:ちぃいッ!

N:もはや手段を選ばずオートバイは道路のど真ん中を突っ切っていく。

   遠くに見える結界はみるみる形を変え、最終的に三角のピラミッド状となってしまった。

ハーネル:くそったれが!アレじゃ唯一空いていた上からですらも突入できねぇ!

ミカヅチ:上・・・?

ハーネル:あぁ、基本的にさっき使っていた結界は障壁型なんだ。要は金網デスマッチ
        みてぇに四方が塞がれる状態、だが上はからっきしなんだよ。だから唯一行けるのが
        上から無茶すりゃ・・・って話だったんだが、アレじゃ八方塞がりだ・・・

N:うなだれるため息をつくハーネルの後ろで、ミカヅチはじっと結界の上のほうを睨む。
   首を回し関節を鳴らすと、ハーネルとはまた別なため息をつき、目の色が変わる。

ミカヅチ:ハーネル。結界型魔法は下から上へ発生するのか?

ハーネル:あ?・・・あ、あぁ。噴水みてぇな理論だからな、確か根の部分と
        側面の端、骨組みにあたる部分だけは無駄に出力は高いはずだ

ミカヅチ:そうか・・・。なら上が幾面合わさった所で大した気の流れではないな・・・

ハーネル:お、おい何だってんだ?

ミカヅチ:ハーネル、お前は正面から突っ込め。俺が上から行く

ハーネル:・・・はぁ!?お前ヒトの話聞いてたか!?
        国王の結界魔法はエリダンヌの誇る絶対防御、誰にも破れねぇんだぞ!
        今まで幾度と物理・質量兵器、奥義魔法と受けてきた最強の盾だぞ!?

ミカヅチ:だから「俺が」やるのだ

ハーネル:ッ・・・お前・・・・

ミカヅチ:俺は力の強い物理兵器も、一対多数で殲滅力のある質量兵器も、
        ましてやこんな身体じゃ奥義魔法どころか通常の攻撃魔法だって使えやしねぇ。
        ・・・だがな?俺は今まで「魔力の流れ」を見て闘ってきた。

N:近くで見ようものなら、戦慄し背筋をも凍らせるミカヅチの右目
   幾度となくその鋭い眼光に救われ、恐怖し、心を震わせられたか分からない。
   ハーネルは冷や汗をかきながらも目はギラつかせ、体勢を低くした。

ハーネル:聞かせてもらおうじゃねぇか「迅雷」・・・

        てめぇが買ってきた地獄への片道切符の行き先をよォ!

ミカヅチ:何処でもいい、周辺に踏めそうな金属がある場所までバイクを飛ばせ!
        見つけたら俺は飛び降り、お前はそのまま正面から学園に向かってくれ。
        「雷脚振跳」を重ねて俺はあの結界の真上まで飛び、上空から一撃叩き込む・・・!

ハーネル:一撃ってお前・・・。いくら魔導斬とはいえサムライソード無しでか?
        魔力の流れが一番薄いところだからって、超降下ドロップキックじゃ無理だぜ?

ミカヅチ:あれを使うのだ

ハーネル:あれって・・・お前、大丈夫なのかよ・・・!

ミカヅチ:愛する戦友(とも)を護る為の剣(つるぎ)に俺はなるのだ。
        その名の通り己自身が一本の剣となるならば、従える稲妻は一本で良い。

ハーネル:・・・天候の悪さを利用して自然現象すら武器にしてやろうってか!
        だっはっはっはっは!悪くねぇ!嫌いじゃねぇ!いいや大好きだねクソ大博打!
        ならば「迅雷」さんよ!ここが地獄の停留所だぜ!とっとと行きやがれ!!!

ミカヅチ:応よッ!先に往くぞ相棒!

N:立ち上がったミカヅチがタンデムシートを勢いよく蹴ると、高く宙返りをする。
   その降り立つ先は廃車の並ぶスクラップ場。一台の車のボンネットに着地したが、
   途端何かが飛んできたのに気づき、その飛来物を目の前でキャッチする。

ミカヅチ:・・・・・空のマガジン?M1911(ガバメント)タイプのシングルカラムか。
        ハーネルめ・・・。咄嗟の判断とはいえ、粋な餞別をしてくれる。

ミカヅチ:そうだ、俺にはまだ使命が残っている。それは決められたモノじゃない。
        俺がこの地で、戦友(とも)と過ごした日々を通じて芽生えた、俺だけの使命。
        愛する妹と戦友の為、俺は再び地獄から、死の淵から這い上がってきた。

N:ミカヅチがどっしりと体勢を低く構えた瞬間、その場の磁場が歪む。
   「雷脚振跳」で空高く跳躍していったミカヅチは、その後何度も繰り返す。
   廃車からマンションの屋根、マンションの屋根からビルの屋根へ、高度を増していく。

   いよいよ最後の建物から学校までの距離を目と鼻の先まで詰める。
   最後の建物から勢いよく弾き飛ぶと、もはや速度は目に追えぬものとなっていた。

ミカヅチ:忽(こつ)・・・豪(ご)・・・。足りぬ・・・!もっと速く・・・!
        己が稲妻と同じ速度に成れずして何が「迅雷」かッ!
        同じ立ち位置も辿り着けず肉体が焼け焦げるくらいならこんな身体要らぬわ!

ミカヅチ:・・・有り難く使わせてもらうぞ相棒。アメリア、スティレット、先生、
        レベッカ・・・ミズチ・・・待っていろよ・・・。

ミカヅチ:目指すは「雲耀(うんよう)」!四肢が千切れようが焼け焦げようが知ったことか!
        ・・・浅井陰俄流(あざいいんがりゅう)、「雷脚迅跳(らいきゃくじんちょう)」ッ!

N:空中で空のマガジンを足場に、ミカヅチはその場から更に高く、速度を上げる。
   場所は既に学園の上空。ピラミッド型となった結界の真上、渦巻く曇天の中心となった

   ミカヅチには見えた。上空から結界の中、未だ戦い続ける仲間たちの姿を。
   そして、その状況は既に最悪の状況だったとうこと。ミカヅチは咆哮した。

ミカヅチ:魔導斬一刀流が「迅雷」、浅井御雷は今宵一振りの剣(つるぎ)となろう!
        なれば曇天よ、お前の中に従えるその雷(いかずち)を譲ってはくれまいか!
        命なぞくれてやる!我が魂に応えてみせよ・・・雷光ォォッ!!!

N:みるみる発達していく積乱雲から、所々で光が見え隠れしていく。
   それは一点に集中していくようで、渦の中心では既に光が凝縮されていくのが分かる。
   ミカヅチは落下していく空中で逆さの体勢になると。残りのマガジンを足に添えた

ミカヅチ:魔導斬一刀流強行突破兵法・・・奥義!「電光石火・重雷砲(じゅうらいほう)」ッ!!!



N:その出来事は、ほんの一瞬だった。ミズチを叩き潰そうとした魔導兵器に落ちた雷。
   衝撃そのままに地面に叩きつけられた魔導兵器は、無残に大爆発を起こす
   爆風からミズチを護ったスティレットは目の前にある火の海へ振り向いた。

スティレット:国王様の結界を破るだけでなく、兵器の魔心炉もろとも破壊した・・・

アメリア:な、なに・・・?何が起きたの今・・・!?

ミカヅチ:おォオォォォぉぁあああああァァァッッ!!!!!

スティレット:ミカヅチ様・・・!?

アルバート:ミカヅチ!?

アメリア:ミカヅチさん!・・・よかった、ミカヅチさん!

ミズチ:お兄ちゃぁん!!!

スティレット:ッ!?待ってください!

アルバート:離れろッ!

N:スティレットとアルバートが叫んだ瞬間、爆発地点の周りが轟音と共に陥没する。
   衝撃波が4人を襲うと、燃え盛る魔導兵器の残骸からミカヅチが姿を現した。
   炎をかき消さんばかりの速度で突進すると、矛先はスティレットに向かっていた

スティレット:くぅうッ・・・!

ミカヅチ:シェえぁァッ!!

アメリア:止まりなさいッ!シュート!

ミカヅチ:シッ・・・!ふんッフンッ!効かぬわッ!

アメリア:そんな!手刀で魔力弾を・・・

スティレット:今だっ、アクセルエッジ・・・!

ミカヅチ:んガッ・・・!?

スティレット:お嬢様!止めるなら今です・・・ッ!?

ミズチ:スティレットちゃん!離れて!

アルバート:いかんっ・・・!

ミカヅチ:砕け散れぃいいいィィィッ!!!

N:それは瞬く間の攻防だった。とっさの判断でアクセルエッジを使い、ギミックナイフで
   ミカヅチの脚を刺し動きを止めたハズだった。・・・だが、刺し入れた右腕は
   そのまま掴まれると、小さな身体は虚しく宙に浮き、一瞬にして天と地が逆転する。

   地に叩き付けられた衝撃で右腕が根こそぎ千切られたスティレットは、
   そのままアメリア達の場所まで投げ飛ばされ、成す術なく転がっていった。

アメリア:ス、スティレットぉぉぉッ!!?

ミズチ:スティレットちゃん!しっかりして!

スティレット:ぐッ・・・右腕の完全損傷、ボディ・・・関節部のダメージが甚大・・・。
            皆様、申し訳ありません。・・・これ以上の戦闘行為は不可能です・・・

ミカヅチ:フシュウぅぅぅウウウゥゥゥゥゥ・・・ッ!

ミズチ:何でこんな・・・先生!何が起こってるんですか!?

アルバート:(サムライソードを持たずして、なんて戦闘力だ・・・!)
          スティレット、あいつに何が起きている?まだお前の目は生きてるか・・・!?

スティレット:恐らく・・・ですが。物理限界を、遥かに凌駕した速度で、雷と共に
            落下した衝撃が・・・魔心臓に何かしらのショックを与えて・・・炉心が暴走したのでは・・・

アメリア:炉心の暴走・・・

ミカヅチ:返してもらうぞ・・・妹を・・・ッ!

ミズチ:お兄ちゃん目を覚ましてっ!私はここにいる・・・皆と、仲間と!

アメリア:待ってミズチちゃん、闇雲に彼の目の前に出ては・・・

ミズチ:みんなは悪い人じゃない!お兄ちゃんも分かってるでしょ!すっと一緒だった!
      ・・・だから、私はみんなに守ってもらっている。私も戦っている!

アルバート:(あの目は、俺が知っている目だ。ミズチの知らん、過去のミカヅチの・・・)

ミカヅチ:ミズチを護るのは俺だァァァァァッ!!!

アルバート:こンの馬鹿野郎がァッ!!

ミカヅチ:ごッふぅぉ!?

アメリア:先生っ!?

アルバート:まったく・・・。コイツは俺に任せろ、お前らはスティレットとレベッカを頼むぞ

ミズチ:アルバート先生・・・

アルバート:ミズチ、ミカヅチは今・・・過去にいる。あの目は、ミカヅチがこの地で
          修羅となるために死闘を繰り広げていた、あいつが死ぬ前と同じ目だ。

アルバート:お前を護るためだけに力を欲した、あの時代。俺もあの目には何度も戦慄した。
          だが結果としてミカヅチの欲は自分を破滅の道へ追いやり、自滅させた・・・。

アメリア:先生も・・・昔のミカヅチさんを知っていたんですか・・・?

アルバート:悪いな・・・。だからせめて、ミカヅチは俺が止める。

スティレット:サムライソードが無くても・・・あの戦闘力です・・・。
            アルバート教諭・・・。全力で行かねば、教諭でも可能性は・・・

アルバート:安心しろ。俺だって教え子に殺されるのだけは御免だ。
          それに、あの暴走そのものを止めるのは俺の力じゃ無理そうだからな

ミズチ:どういうことですか・・・?

スティレット:・・・全ては、彼自身と・・・いうことですね・・・

アメリア:(そういえば・・・)

アルバート:さぁ来るがいい「迅雷」!この「拳聖」が相手しよう!

ミカヅチ:「拳聖」かッ・・・相手にとって不足は無し!

N:両者、拳(けん)の構えを取ると、ミカヅチの発する「夜眼・獅子威(ししおどし)」が
   いっそう周辺の空気を重くしていく。アテられるアメリア達は、生温い汗に襲われる。
   ジリジリと間合いを狭めていく二人だったが、先に地を弾いたのはミカヅチだった。

ミカヅチ:シェぇえあァッ!!!

アルバート:ぬんッ!・・・ぉおおォ!

ミカヅチ:シッ・・・!カァッ!

アルバート:ふっ!フッ!せぃィやッ!!!

ミカヅチ:カッ!?ォおおおぁぁ!

アメリア:み、見えない・・・。これが人間の動きだっていうの・・・?

ミズチ:・・・左・・・小手、小手、顎・・・

スティレット:拳の放たれる速度と抜きが・・・ほぼミカヅチ様の抜刀術と同じです・・・

ミズチ:違う、抜き7割からの胴・・・胴・・・入った!

スティレット:・・・ミズチ、さま・・・?

ミズチ:今のは首の頚動脈・・・先生、左胴が空いてる!

アメリア:(この子、動きが視えている・・・!?)

アルバート:くぉおッ!?

N:目にも止まらぬ体術の攻防だが、不覚にもミズチのつぶやく内容が現実となっていた。
   「迅雷」の放つ斬撃(しゅとう)が、「拳聖」の放つ砲弾(こぶし)が、
   人間の急所を狙って放たれる技がカンマ数センチずれながらも体を捉えていく。

アルバート:(この兵法はッ・・・覚えがある!空手に似ているが、明らかに
          重心移動が違うッ!少林寺拳法でもない、ジークンドーでもない・・・!)

ミカヅチ:外式・・・「雷暴槍(らいぼうそう)」ッ!

アルバート:ふんッ!(そうだ・・・彼の体術は俺と同じだ・・・ッ!)
          「スリーショット・バースト」だッ・・・撃ち墜とすッ!!

ミカヅチ:「参点重弾(さてんじゅうだん)」ッ!

アルバート:まぁだまだァッ!!「マシンガンズ・キャビテイション」ッ!!

ミカヅチ:勝負ッ!外式「雷裂轟打(らいれつごうだ)」あぁッ!!

N:連打、連打、連打。無数の拳が二人の間に衝撃波の壁を作っていく。
   お互い腕の衣服は既に破れ散り、強靭な筋肉が唸りを上げて連打を加速していく。

アルバート:ふぅウウウゥッ・・・!(そうだ・・・そうだったな・・・!)

ミカヅチ:フシュゥウウウウウぅぅぅ・・・ッ!!

アルバート:かぁッ!!!

ミカヅチ:ぬぉッ!?

アルバート:せぃいいいぃあッ!!

ミカヅチ:ぐっおぉあ!

アルバート:墜ちろォ!「タイラント・シュート」ォォォおおおァァッ!!!

アメリア:決まった・・・!

ミズチ:まだですッ!まだお兄ちゃんの目は・・・!

ミカヅチ:チェストォォォオオオッ!!!

アルバート:ぐおぉッ!!?

アメリア:受けてから空中で、身体の軌道を変えて叩き落とした・・・

アルバート:かはっ・・・!こ、こいつぁ堪えるな・・・

ミカヅチ:くはっ!・・・ゼェ・・・ゼェッ・・・!

アルバート:(そうだ、ミカヅチはこの世に存在する武術を使っているワケじゃない・・・
          土台となった体術から、更に己の培った業を加えた「浅井陰俄流」)

スティレット:・・・昔のミカヅチ様は、あんなにも純粋な目をしたいたのですね。

アメリア:純粋・・・?

スティレット:ミズチ様を護るという願いだけを信じ、それをカタチにしたという眼差しです。
            ・・・たしかに端から見れば魔人のような輝きですが。私にはそう思います。

ミズチ:うん・・・。あれは紛れも無く、昔の・・・帰ってきた時のお兄ちゃん。
      確かに常に表情が怖くて、誰も近づこうとしなかった。それでも瞳だけは、暖かかった。

スティレット:アルバート教諭もきっと、その時のミカヅチ様とまだ闘いたかったのでしょう。

アメリア:スティレット・・・。というかアナタ、もう大丈夫なの?

スティレット:ご迷惑をおかけしました。リカバリー機関が修復を始めましたので。
            ・・・私もチームの一員として、―――この闘いを見守りたい。

アルバート:「バルカン・バスター」・・・

ミカヅチ:外式「抜拳・夜行重巡(ばっけん・やこうじゅうじゅん)」

上記二名:ォおおおぉぉりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃァァァ!!!

N:無数の拳がぶつかり合い、時に拳は身体を捉え、時に拳はお互いの頬を捉えて止まる。
   それでもお互いの額をぶつけ、大きく息を吸ってはまた拳の応酬が繰り返される

ミカヅチ:ぉオおおぉおッ!押し通ォォォるッッ!!!

アルバート:(強いな・・・本当に、強い。彼が死なずに生きながらえていたなら、
          純粋な力はこれを遥かに凌駕していたのだろうか・・・だが・・・)

アルバート:忘れたのかミカヅチ・・・!幾らお前がその武術で闘おうとな・・・!

ミカヅチ:・・・ッ!?

ミズチ:お兄ちゃんの攻撃を全部叩き落した!?

アルバート:お前にその業を教えたのは・・・この俺だぁぁぁあああァァァッ!!!!!

ミカヅチ:ごぅッ!?ぐぅううゥゥおぉあああああぁぁッ!!!??

アルバート:ぬゥうェりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃッ!せぃいいいィィッ!!

ミカヅチ:ぐっ・・・ふぉぁ・・・ッ

アルバート:パイィィぃルッ・バンカァァァあああああぁぁぁぁぁッ!!!!

ミカヅチ:ぉっ・・・ごふぅおぉぉあッ!!!

N:浮かせた身体を、アルバートの砲弾(こぶし)が捉えた。左胸にパイルバンカーが直撃した
   ミカヅチは、夥しい衝撃と共に校門の外壁に激突。破壊された瓦礫もとろも崩れ落ちた。

ミズチ:お兄ちゃん!

アメリア:ミカヅチさん!

アルバート:ふぅッ・・・さ、流石にこればっかりは堪える・・・

スティレット:教諭、よくあの初速を振り抜かずに止められましたね・・・。

アルバート:ま、長年に及ぶ鍛錬の成果ってヤツだ。・・・流石に振り抜けば、
          いくらミカヅチの肉体でも無事を保障してやれる気がしないさ。

ミズチ:お兄ちゃん!お兄ちゃーん!

アメリア:ダメ、瓦礫の山で見当もつかない・・・

スティレット:再び魔心臓へ強い衝撃を加えるという方法、効きますでしょうか?

アルバート:できれば、効いてほしいもの――

ミカヅチ:ッぬゥゥううォォォオオオオオォぁぁッ!!!

ミズチ・アメリア:きゃあぁあああぁっ!?

N:瓦礫の山から雄叫びを上げながらミカヅチが姿を現す。
   全身から血を噴き出しながら、力任せに咆哮を繰り返し手をかざす。
   その手に持っているのは外壁の骨組みに使用されている鉄のパイプだった。

   更にそのまま両手に持ち替えると、胸部に向けてまっすぐ構えていた。
   咄嗟にスティレットが左腕の機銃を数発撃ち込むも、それだけでは到底止まらない


スティレット:まさか・・・!

アルバート:無理矢理心臓を刺して止める気かッ、やめろミカヅチ!!?

ミカヅチ:ふんんぬゥゥゥうううおおおぁぁぁ!


ハーネル:何しとんのじゃお前はあああァァァァァッ!!!!!

ミカヅチ:ギャーーーーー!!!??

N:エンジンの轟音と共に現れたのは、単車に乗ったハーネルだった。
   今にも自分の心臓を刺そうとしていたミカヅチを、そのまま前輪で跳ね飛ばす

アメリア:ちょ、み、ミカヅチさーん!!?

ミズチ:お兄ちゃんがまるで木の葉のようにー!!?

アルバート:・・・・・(開いた口が塞がらない)

ハーネル:ふんぬっ!・・・っと、かなーり間一髪だったじゃねぇかよ

スティレット:ハーネル様・・・

ハーネル:おぉい!?スティレット大丈夫かよそれ。かなり手強かったのか魔導兵器は?

スティレット:あ、いえ、これは・・・

N:スティレットとアルバートの視線を追うと、仰向けに大の字で倒れるミカヅチの姿。
   介護するアメリアとミズチを余所に、ミカヅチが何をしていたのかをハーネルに説明した

ハーネル:なんつーかどうしようもねぇな・・・

スティレット:ただただ、強かったです・・・

アルバート:俺も久方ぶりに本気になってしまった。お陰で全身が痛いぞ?

ハーネル:パイルバンカーを人間に当てると普通死なねぇ?

スティレット:ハーネル様、それ先程似たような事聞きました


ミカヅチ:ぅ・・・ぐ・・・!

ミズチ:お兄ちゃん!

アメリア:ミカヅチさん!

ミカヅチ:ミズチ・・・アメリア・・・?

ミズチ:ッ〜〜〜お兄ちゃんっ!お兄ちゃん良かったぁぁぁぁぁッ!!!

ミカヅチ:待て待て待て痛いイタイいたい痛い痛い!!!
        いだだだだ!落ち着けミズチあーだだだだだ!!?

アメリア:みっ、ミズチちゃん、血が!血が付いちゃうから!

ミズチ:うぇえええぇん!!!良かったよぉおお!心配したよおおおぉぉぇえええぇん!!

ミカヅチ:・・・・・。

アメリア:でも、本当によかったです・・・ぐすっ

N:ボロ雑巾のようなミカヅチに抱きつきながら泣きじゃくるミズチの頭をただ撫でる。
   ミカヅチが身体を起こすと、その視界にもうひとりボロボロになった姿を見つける

ミカヅチ:スティレット・・・。お前、その姿は・・・

スティレット:ミカヅチ様、魔導兵器を破壊してから今までの記憶はありますか?

ミカヅチ:・・・いや、全然ねぇ。ん?待てよ俺は兵器の爆発に巻き込まれてこうなったんじゃ?

スティレット:・・・・・。

アメリア:・・・・・。

ミカヅチ:ん?何だ何だ?

スティレット:・・・罰・・・す。

ミカヅチ:ん?お、おう何だ何だ?

スティレット:・・・罰として、私の頭も撫でて戴きます

アメリア:えっ!?ずるい!

全員:えっ?

アメリア:・・・えっ?あっ!いえ何でもないです!

アルバート:(煙草に火を着け)ふーっ・・・。まぁ説明は後だな。
          まず一旦全員病院送りだ。まだノビてるレベッカの事もあるしな

ミズチ:お兄ちゃん、立てる?肩貸すよ?

スティレット:私も手伝います

ミカヅチ:お前ら少しは自分の身を案じろ。ハーネル、頼むわ。

ハーネル:んぁ?仕方ねぇなぁ

N:一同は立ち上がって学校を後にする。切り札は見事に復活を果たしたのだ。
   笑い合って去っていくものたちを、屋上から1人の男が笑みを浮かべて眺めていた。



ミズチ:誰にでも刻まれたものがある。誰にでも逃れられない運命がある。
      旅路は永く尊いけれど、その中でも笑い合っていられるのなら、永いとは思わない。
      次回「約束への切符」。男は叫ぶ、愛する者との本当の幸せを願って。


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